決済日に引き渡す

決済日に引き渡す

不動産の売買~決済にあたっては、
忘れてはならない大事な原則があります。

それが、同時履行の原則。

 

通常は、契約条項により

  • 代金の全額支払い
  • 登記(登記書類の授受)
  • 引渡し

以上が同時履行とされ、
それらが履行されると同時に
所有権が移転するとされています。

 

契約書に上記以外の条項があるときは
それに従いますが、

定型の契約書条項では
上記のようにされていることがほとんどです。

それが一番 安・全 だから。

 


(同時履行の抗弁)
民法第533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

(代金支払期限)
民法573条
売買の目的物の引渡しについて期限があるときは、代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。


 

この同時履行が問題になるのは
ほとんどの場合
登記と支払に関わることなのですが

たまに

「引渡し」が問題になることがあります。
(この場合、登記が支払いと同時であることは
当事者は了解しています)

不動産で「引き渡す」という言葉が
意味するところは

  • 建物の場合は、そのカギの授受
  • 土地のみの場合は、引渡しの合意

 

鍵の授受をもって引渡しとするというのは
つまりは
引き渡したら所有権は買主に移転するので
(登記が完了し名義が移るまでは時間がかかるとしても)

その家に対しては、売主はもう
住むことはもちろん、何の権利も持たないことの
象徴でもあります。

実際ほとんどの場合は鍵は新品と交換されます。

さらに、万が一残置物があったときに備えて
契約書には、残置物に関する条項が
あったりします。

 


第○条 物件内の残置物については、売主は
所有権を放棄する。

または、

第○条 売主は、その撤去義務を負わず、
買主は撤去処分等を行うことができる。

などです。


 

そうして決済日には

代金支払い、登記書類の授受、および
引き渡しが全て同時履行とされるのですが

たまに、引渡しだけが、当事者の都合で
後日になることがあります。

 

それならば決済日を遅らせれば良いのでは?
と思いますが、もちろんそれが
一番合理的な解決方法なのですが、

そこにはいろいろな思惑があって、
遅らせることができない事情が有ったりします。

 

通常は、売主の都合でそうなることが多いか
と思われますが、

時には買主の都合で、
どうしてもこの日に決済したい。
この日を逃すと数か月遅くなってしまう
というようなことですね。

売主がまだ住んでいようが何だろうが、
その日に決済してしまいたいということです。

このように事前に状況がわかっている場合は
契約書の特約条項に謳っておくことが
多いです。

または、決済の間際になって

売主の引っ越し先の準備が整わない、とか
施設入居の予定だったのに
急遽変更になった
など、

当初は予定通り決済日に引渡しができるはず
だったのに
やむを得ず事情が変わってしまった
ということも
あります。

そうしたときは
契約書には同時履行が謳われているので

新たに、

覚書、念書、確約書、合意書のような
書面を作り、後日の証とします。

 

このようなものです。

 


確 約 書

略)

以上の事由によって
本日決済にも関わらず本物件の引き渡しが
できないが

本年○月○日までには間違いなく本物件を
明け渡す。

引渡しまでの水道光熱費は売主が負担する
ものとし、家屋の使用については、
善良な管理者の注意をもって行うものとする。

また、本日をもって所有権は買主に移転して
いるので、本来であれば明け渡し日までの
賃借料が発生するところであるが、買主は
売主に対して無償にて使用貸借させることを
約すものである
。  云々。


 

という感じでしょうか。

これで一安心といいたいところですが
こちらも、約束に過ぎないので
守ってもらえないことも稀にはあります。

身近に見聞したことはないですが

約束の期日になっても
立ち退いてもらえないときは

1 まず売主にお願いして事情を聴く

2 仲介の業者さんに手助けを依頼する。

3 弁護士に相談して交渉してもらう

4 それでも埒があかなければ
立ち退き訴訟を提起する

という感じになるでしょうか。

 

もちろん様々な事情があってのことで
当然なされるべき引渡しが
同時履行されなかったわけですが

やはり、よほどのことがなければ

こうしたこと
(本来同時履行とされるべきものを
あと回しにすること)
は避けた方が良いです。

危険が大きすぎます。

大枚支払ったのに、そこに住めない。

これまでの家を退去していたとしたら
買主はへたをすると
ホテル住まいを余儀なくされます。