ていねいな遺言書を書く

遺言をもっと丁寧に書きたい

 

いつも、シンプルに、
奥さんに全てを遺すという遺言書を
おすすめしてきていますが。

 

あれは、いわば、
伝家の宝刀というか、
最後のあがきというか、
丁寧に自筆遺言を書く時間も情熱もなく
かといって、
公証役場は敷居がたかく
まあ、いいか。このまま時の流れに
身をまかせてしまおう、妻も、同じく
時の川辺に佇むことになるかもしれないが
いずれにしても少しの辛抱。
諦めてもらおう、などと
すべてが面倒になって遺言を遺すことが
不可能になりかけた方へのもうほんとに
最後の切り札的な遺言書でした。

 

○ シンプルな遺言書

 

このような感じ↓


遺言書 
妻の片山リエにすべてを相続させる

令和2年1月3日 
片山利栄吉 印


まあ、妻のリエさんはこれで満足かもしれないです。寂しいにしてもこれをご覧になるときは夫死亡後なので。
遺言書に感謝の言葉もねぎらいも詫びも何もなくても夫婦なので通じ合うものはあるでしょう。

または、乱れて力の入らない筆跡に、利栄吉さんの最後の渾身の愛情を感じとれるかもしれません。

 

でも、この片山利栄吉さんには、遺言状には登場してきませんが、お子さんが二人います
ひとりは前妻の子。
ひとりは50歳過ぎて授かった20歳になったばかりの子。
しかし、この二人にはすでに、
教育資金、独立資金として充分なものを
与えてあると思っているので、あえて、
子どもには何も残そうとは思っていません

 

でも。

 

特に、前妻の子とは、ともに暮らした期間も短く、大人の事情から随分寂しい思いをさせてしまっただろう、という悔いがあります。

また、現妻との間の子には、自分の亡き後、本人も心細いとは思うが、唯一の肉親であるという自覚をもって、自分の代わりに見守ってほしいと願っています。
それなのに微妙に恥ずかしいというか面映い気がして、情けないことにどちらともきちんと話をしたことがありません。

 

そんなとき、遺言書付言事項
(ふげんじこう)を使います

別途、お手紙を書くことができるのであれば、その方がよいかもしれないですが。それはそれとして

 

○ 遺言書付言事項とは

遺言書本体は法的効力を生じさせる目的で
書かれるものですが、対して、
この付言事項には、法的効力はありません

 

家族仲良く、とか、
これまでありがとうとか、
お母さんを大切に、とか。

家訓のような、というか、要するに、
あってもなくても遺言の執行には
全く関係ない部分のことです。

 

なので本体部分とは別に、本文の最後に
手紙で言えば追伸のようなイメージで
書かれることが多いです。

 

○ 付言事項の目的は

しかし、この部分は
残された人の感情に配慮するための
大事な場所
なのです。

法的効力がないからといって、
書かないでおくのは得策ではありません
(書けないのは仕方ないです)

 

付言事項にはこのようなことが
書かれることが多いです

 

・感謝の気持ちを伝える

日常生活の中では、思ってはいてもなかなか伝えられないものです

・この遺言を書くに至った経緯

3人で分けたらお母さんが暮らしていくのに充分ではないし、お母さんが子どもたちに遠慮して無一文になることが心配。とか。

・どんな人生だったのか

つまり、
家族のおかげで幸せであったということを
書いておきましょう。
終わりよければ全てよしです。

仮に、

いいやわたしは全然満足してない、
家庭に恵まれず不幸だったと思っていても
「おかげで幸せであった」
書いておくのがよいと思います

書いているうちにそうなってくることもあります。

特に、幸せ不幸せはこちらの心の持ちようひとつなので。

嘘でもいいので、
おかげで幸せでした。ありがとう
書くようにしましょう。

 

○ こんなことを書くこともあり

これはエンディングノートに書かれることが多いですね かなり多岐にわたるのでこれら全文を自筆するのはけっこう大変かもしれません

  • 葬式・お墓関係
  • 連絡先 友人関係など
  • 臓器提供の意思
  • 身の回り品の処理

 

○ 付言事項のメリットは

 

単に、要件のみで、
「家はだれそれ、預金は誰それ、
に相続させる」

だけだと、ちょっと寂しいです。

ねぎらいの言葉とか、感謝とか。
これらを書くだけで、遺言書に血が通います

単なる法律文書ではなく、
家族にあてたお手紙になります


お父さんにはこれだけしか残せるものがありません。だから、全てをお母さんに遺します 子どもたちはそれぞれ仕事も順調だし、なにより自分の手と足で未来を創造していく力があります お母さんに全てを遺すのは、そういう理由です

お母さんには、言葉で言えないほどの感謝をしています。心細い思いをさせたこともありました。これまで謝ることができなかったけど、ごめんなさい。でも、お母さんのおかげで私は世界一の幸せ者でした。

そして、この家族に囲まれて、お父さんは本当にしあわせでした。ありがとう。みんながこれからも幸せで暮らせることを信じています。
これまで本当にありがとう。


ちょっと冷静に考えれば何ということもない単なるご挨拶のようなものですが、当事者にあっては、魔法の杖のひとふり、のような働きをします。それはそこに真実が横たわっているからです それがなければ、単なるご挨拶に過ぎません

だからこそ、これらによって、相続トラブルを回避できたり

円満な相続が実現できたりするわけです

 

○ 付言事項、書く時の注意

 

この世に遺す(残る)最後の意思表示です

なので、書いているうちにどんどん気持ちがヒートアップ(ダウン?)して黒い感情が出てきてしまったとしたら、それを文字で遺すのはやめておきます。

愚痴や悪口嫌味当てこすりなどは
絶対に避けましょう

 

ある意味最後のメッセージとなるからです

一時の感情に任せて書いて、自分で思い返しても赤面するようなひどい言葉はやめましょう。

遺された人たちは、その付言事項を、何度も何度も読み返すことになります。

 

日常会話であれば、
本意ではなかったとか、
ひどい目にあって気が動転していたとか
好きなように言い訳や訂正ができますが
遺言に書いたまま訂正する時間もなく
死んでしまったとしたら、
もうどうすることもできません。

 

書いた方も心残りでしょうが、
それを見せられた方はたまりません。

 

ま、本文(法律的に意味を持つ部分)がなくて、それだけのお手紙であったなら捨ててしまえばいいだけのことですが、付言事項として妙な繰り言が書かれてあったなら、遺言の執行のたびにそれを目にせざるを得ないわけです。
そこだけ切り取るということはできません。

 

家庭裁判所で検認手続を経ていれば、
遺言書に封筒あればそれも合綴されて
さらに裁判所の検認証明書と合わせて
ホッチキスなどで綴じられていますから
そのままの状態で保管していないと
遺言執行に差し支えます

 

これが自筆でなく公正証書であれば、万が一愚痴や悪口を書きたい場合でも公証人がそれとなく注意喚起してくれるのではと思いますが、ここが自筆遺言の怖いところで、好きなように書けてしまいます。誰も注意してくれません。

 

せめて一晩おいて次の日に
読み返してみましょう

朝の光の中で、
自己嫌悪に陥るようなひどい言葉があれば
もう一度最初から書き直せばよいだけです

 

まとめ

 

何も思いつかなければ、

愛をこめて。

幸せでした。

ありがとう。

このあたりをおすすめします

ぜひ、
魔法の杖のひとふりを。