代償金というカラ手形

代償金という空手形(からてがた)

 

遺産分割のときに、こんなような協議が成立することがあります

 

被相続人の遺産は、全て相続人Aが取得する
Aはその代償として、金500万円を
相続人B、相続人C、にそれぞれ支払うものとする

 

これは、どういうことかというと、

代償金とは何?

 

たとえば、このような感じです

被相続人の遺産が不動産だけなので
そのすべてをAが相続し、その代わりに、Aは
自分の財産の中から計1000万円をBとCに支払う

というものです。

 

不動産を三者で3分の1ずつ共同相続するという方法もありますが、これだと、
将来、売却するときに足並みがそろわないことになったり、

それぞれについて相続が発生するなどしたときに権利関係が複雑になっていくことが予想されるので、
できるだけ不動産は単独取得がよいとされているためです。

 

ですが、実際は、相続税の関係上、または
相談がまとまらない、などのときに

とりあえずは法定の相続持分で共同名義にしてしまう
ということが行われています。が、
どう考えても、あとあと面倒なことになりそうです

 

そこで、Aひとりで不動産を単独相続する場合。

遺産が他にないとしたら、
Aだけ相続するなんて不公平なのでは?とBCは思います(思わないかもしれませんが)

そうしたときに、
Aひとりに不動産を渡す代わりに自分たちはお金を貰う、という決着をみることになるわけです

 

この時のお金を代償金(だいしょうきん)といいます

 

遺産の中にちょうどよく、BCに分けられるような預貯金があれば問題ないかと思いますがなかなかそうもいきません。

 

あと、代償金支払いという分割方法は、その内容によっては
贈与税が発生することもあるようです

特に、預貯金がないときに、Aが自分の財産から代償金を
支払うようなときは、ご注意ください

このあたりの実際の運用は、税理士にご相談なさることをお勧めします

 

代償金はいつ支払う?

 

本来は、
署名押印・印鑑証明書と引き換えに
現金または、預金小切手、あるいは銀行振り込み等によって、
金銭のやりとりをするのが望ましいと考えます

 

しかし、もろもろの事情によって、そうもいかないこともあるでしょう。

金額にもよります。

5万円ならば、その場で支払うことは簡単かもしれないですが、
500万円となると、支払方法の検討とか、振込先の確認とか、すぐに実行できない理由はいろいろあります

おまけに、「お金と引き換えじゃないと、ハンコは押せないわ」という一言は、伝えるのにけっこう勇気が必要なセリフではあります

 

それに、このような約束をするからには、おそらく、当事者間には、信頼関係があるのでしょう。そもそも親戚関係にあるわけですし

「今、遺品の整理とかで忙しいから一息ついたらすぐにふりこみます。間違いなく振り込むから少しだけ待っててくださいな。」こんな感じでしょうか。

これを言われて

「すぐ、振り込んで。今、困ってるから。今日中に振り込んでくれないなら、印鑑証明書返して!!!」などとは言えるものではありません。

 

 

さて、代償金を支払うという条件によって、全員の間で遺産分割協議が成立したとします

2か月、3か月、半年くらいたっても振り込みがなされなかったとしたらどうですか。

 

代償金がもらえない

 

求めに応じて、このような代償金を内容とする分割協議書をお作りすることはあります

残念ですが、こちらでできるのは作るだけ。
その支払いがなされたかを確認することまでは、通常、することはありません。

ただ、特にそのようなご要望があれば、その確認をすることは吝かではありませんが。

 

さらに言えば、
当方で協議書を作成するときに、

相続人全員から話を聞いてその合意を協議書として仕上げるというのは、
理想ではありますが、かなり稀なことです。

ほとんどの場合は、

権利を取得した人(不動産の新名義人になる人)からの依頼で、
合意された(とされる)協議内容をうかがって
そのまま書類として作成するだけです。

 

ところで、
登記だけ先行することが可能なのか

また、代償金がまだ手元に来てないから、
不動産の名義も同じように亡くなった人のままなのでは?
と考える人がいます

土地の名義だけ変えたのに
代償金の支払いがないのは、
それはおかしいのでは?ということです。

 

確かにその通りでおかしいですが、

分割協議の合意がされたということと、
その内容が履行されるかどうかは、また、
別の問題です

 

相続による不動産の名義変更をしようとしたら、
分割協議書(全員で署名捺印して印鑑証明書を添付したもの)さえあれば、
あと戸籍等も必要ではありますが、
これで、OK。
不動産の名義を変えることが可能です

 

たとえ、代償金と引き換えに不動産の名義を変えると書かれていても、
代償金を支払う、の部分が履行されたかどうかを調査する人はいません

法務局で調べてくれる、と思っている方もいますが、それはありません

 

 

支払うお金がない・なくなった

 

そもそもお金はない

 

不動産を全部もらえさえすればそれでいい、と、実は、代償金にあてるお金がないのにも関わらずにそのような協議をしてしまう人がいます

これは、お金の有り無しは表面からはわからないので、

本人が払える、と言っているものを本当に持っているのかなどとは通常は言わない

という人間心理に付け込んだものです

 

それを見越して、
最初から支払う気もないのに、または払える資力もないのに、このような協議を進める人がいるわけです

平たく言うと、
約束を破ったのではなく、最初からできないとわかってる約束をした。ということです

 

状況が変わってしまった

または、

当初は支払う気はもちろんあったのに、後回しにしているうちに、
いろいろとお金が必要なことがあり、

あれ、請求してこないけどいらないのかな
と思っているうちに

大病をしたり、
仕事をやめたりしているうちに、
財源が枯渇!という事態もあり得ます

こうなると、どんなに、支払いたいと思っても実際上不可能です

 

死んでしまう

また、先延ばしにしている間に、死亡してしまうことだってあります

今度はその相続人に対して代償金の支払いを
請求することになるわけですが、

まだもらってないということを証明するのは
これはこれで、またけっこう大変な作業です

相続人が遠方に住んだり、外国に住んだりしているなど、
請求にハードルが上がるうちに、あきらめるざるを得ないことになります。

また、代償金を請求する側も結局何も手にしない間に死亡してしまうこともあります

 

つまり、せっかく皆で知恵を絞って合意に達した分割協議は、うやむやのままという結末

 

調停の場合は

 

遺産分割が当事者間でまとまらない場合は
調停を申し立てることになり、その話し合いの中でも、やはり、

一人が不動産を取得する代わりにほかの相続人に対して代償金を支払う

という解決案はよく登場します。

この場合は、支払者に資力があるのかどうかについて裁判所によるチェックが行われることもあります

具体的には、
1000万円の代償金を支払う側には、
その支払いに充てるだけの1000万円以上の残高のある通帳コピーなどの提出を求めて
裁判所側で確認をする そのような感じです

おそらく、資力のない人からの代償金支払いという実現不可能な調停条項を作出しないためだと思いますが、さすがに厳重ですね。

ただ、このように資力があったとしても
やはり、支払わない人はいます。

調停手続きにおいては、裁判所から、
強制力のある働きかけはできないようですが

調停が成立しているときは、強制執行することが可能です
(強制執行を裁判所に申し立てる)

 

約束したのに。。。

 

では、どうすればよかったのでしょうか

 

原則通り、
同時履行を主張すべきでした

遺産分割協議書に押印し、印鑑証明書を渡す
そのタイミングで代償金が支払われることを確認しましょう

 

・現金ならばわかりやすいです。

その現金と
押印・印鑑証明書を引き換えにするだけです

 

・振り込みの場合は、少々面倒ではありますが
やり方はいろいろと考えられます。

銀行で書類の取り交わしをするとか。
ネットバンキングが使えるのであれば、その方が面倒はないかもしれません。

 

ずいぶん、時間がたってから、
この代償金というものは一体いつもらえるのでしょう?とお尋ねになる方がたまにおいでになります

中には、
請求はしたことがないけど、向こうから払うのが筋なのでは?
とおっしゃる方がいますが、

約束の時から半年以上経過していたら、

忘れているか、いらないと思われているか、大概そのどちらかです。

中には、次の相続が発生してしまってることもあります

 

時間がたてばたつほど、支払いを受けられる確率は減っていきます

 

協議での合意の実現を目指すのであれば

・協議時に、同時履行を求めるか、

そのタイミングを逃してしまったとしたら
大変に残念ですが、

・一日も早く請求するほかありません。