司法書士の限界

司法書士・その職能の限界

 

結局の所、司法書士は、対立する2者の間をとりもったり、着地点を探したりすることはできません。

 

せいぜい、たとえば、抵当権を設定するにあたって、利息や損害金を年何%にするかというような話し合いにおいて、法定利率を示して両者の希望の中間値をおすすめしてみる。とか。できることは、そのくらいのものです。

 

もちろん、債務整理をしたり、少額訴訟で代理人として法廷に出たり、あるいは、裁判関係書類の作成を通じての本人訴訟のサポートも業務としてあります。

 

簡易裁判所の代理権については、別途、認定が必要です。

当職は認定を受けていないため債務整理・簡裁案件はお引き受けできません。

 

しかし、上記を除けば、メインは登記です。

 

登記を2つにわける

 

大きく分ければ不動産登記と商業法人登記の2つです。

 

不動産登記

土地の名義を変える。売買・贈与・相続。抵当権を設定する。抹消するなど。

 

商業法人登記

会社の役員を変える。新株発行する。事業目的を変更する。本店移転など。

 

商業法人登記とは

会社の登記のことです。
会社の代表者または、担当者からの依頼で登記をするので、第三者の存在が問題になることはありません
知らないうちに解任登記された取締役からクレームがくることがありますが、それは、あくまで内部の問題であって、登記自体は、会社(代表者)の意思を実現するだけ。です。

 

翻って、

不動産登記は

形式上対立する当事者が2人以上いることが多いです。

登記申請書には、登記権利者 登記義務者という書き方がされますが、まさにこのように、ある意味利害が対立する2者以上が登記の場に姿を現します

 

  • 売買する  
    買った人(登記権利者)売った人(登記義務者)
  • 抵当権つける
    お金を貸した人(登記権利者)担保物権の所有者(登記義務者)
  • 抵当権抹消する
    物件の所有者(登記権利者)お金を返してもらった人(登記義務者)

そのような感じです。

 

ですが、例外はあります。

 

(相手方がなく、登記をしようと思った時に一人でできる)

  • 引っ越しをしたときに、所有者の住所を変えるのは一人でできます。たとえ抵当権がついていてもその人の同意承諾はいりません。)
  • 建物を建てた時、これも一人でできる登記です。相手方というものは存在しません。

 

つまり、司法書士の限界とは

で、つまり、司法書士の限界についてですが、いくつかの例外をのぞけば、この形式上対立する当事者の間で、

登記意思(およびその前段階の売買とか贈与とか)について合意ができていること

がそもそもの大大大大前提です。

 

たまに、説得してくれ、というご依頼がありますが、とんでもないことです。

本人が登記する気持ちがないのに、それを第三者がとやかくいうわけにはいきません。そこが、司法書士の限界です。

 

ですが、白紙委任状(捨印つき)と印鑑証明書及び権利証をあずかり、そのまま登記を申請してしまう。本人の意思の確認も何もせず依頼人のいうがままに。。。ということがされていた時代もありました。

だからといって、それが許されていたということではありません。そのような不法行為がしやすい制度だったためと思われます。

20年以上前、開業したばかりのころは、白紙委任状を2通、持参した仲介業者から「これで、抵当権つけてくれ、何でもいいからつけてくれ、2000万円くらいで。」というような感じの依頼がありました。

当時は、原因証書(売買契約書とか、金銭消費貸借契約書など)の添付が必要的ではなく、それらがない場合は申請書の写しをつければ足りた時代です。

これであれば、
「なんでもいいから抵当権を」
という依頼にもその気になれば応えることが可能ではありました。

単に不法行為をしやすい制度であったということで当時の登記がこのようなものであったということではありません。

(その後平成18年に改正されて、登記原因証明情報は必須のものとなりました)

 

また、さすがに説得してくれとまでは言われないまでも、何かよい方法があるはずだ、と主張なさる方もいます。とんでもないことです。

 

およそ、人を説得したり、それに変わるよい方法を考えることは司法書士の仕事ではありません。

登記意思に代わる判決をもらう、というのはありです。
(これが裁判で勝つ、ということです)

 

ただ、裁判にしないまでも、あまりにも意固地になってしまい頑なになってしまった気持ちを和らげることや、長年の苦悩で氷のような鎧で武装するにいたった心をほぐして血の通ったものにするなど。
たとえば遺産分割協議の場面などで、他の人と協調するように働きかけることはできるのかもしれません。

 

でもそれをするのは、残念ですが、司法書士ではありません。

 

身近な人にそれができないのであれば、(そもそも身近な人が原因だったりすることもありますね)それを仕事にしているカウンセラーやセラピストに相談してみたらいかがでしょうか。

 

当事者の合意があってはじめて、司法書士~登記~の出番があります