決済のときに司法書士がやってること 

決済のとき司法書士がやっていること

 

○そもそも決済とは何?

・決済とは

 

通常、売主買主双方の、売りたい買いたいという気持ちがひとつになった時 まずは 売買契約をします

多分その際に手付金等で1割くらいのお金が支払われることが多いです。
が、
ゼロのときもあるし、手付1万円とかかれた契約書もあります。
やはり、決済時の比重がとても高いですね。当たり前ですが。

 

決済は、売買契約から数週間とかの後(諸条件が整ったとき)に。

多くは、銀行や業者さんの事務所または司法書士事務所などで行います

 

○同日決済?

話を充分に煮詰めておいて、
契約と決済を同日に、
つまり契約後、日を置かずにすぐに決済を行うこともあります

当事者が遠方に住んでいて何度も出向くのが大変であるとか
売買価格が少額、あるいは特に問題がない物件であるなど
同日決済でも問題ないであろうと当事者が判断したときに
このような形をとるようです。

 

・同時履行

 

登記の書類の一式(登記所にそのまま提出すれば登記が問題なく完了するレベルまでそろえたもの)が揃ってるかどうか司法書士が確認したら

同時に残金(売買代金全額から手付、前払い金を差し引いた額)の全額が買主から売主へ支払われます。

 

さらに、

物件の引渡(ひきわたし)をし
建物の場合は、鍵の授受
土地の場合は、引渡の意思表示
業者の仲介手数料、固定資産税などを清算

ほかに費用(境界立会費用、測量費用、草刈り代金とか、不要物の処理費用など)が発生していたとしたらそれらも清算します。

 

売主買主がそれぞれ登記義務(書類その他の提供)を果たし
代金支払い義務を果たし
これで互いに債権債務はない、ということを確認します。

 

・完全な所有権

 

○ 不動産に抵当権が設定されたままであれば
その抹消登記もこのときに行います。
(抹消に必要な書類を司法書士が預かる)

○ 差押などがされたままならば
取下書一式を司法書士が債権者から預かって
裁判所に届けたりすることもあります

 

多くの場合、売買契約書には完全な所有権を移転するとあります

契約書~売主は引渡までに、所有権の完全な行使を阻害する一切の権利及び公租公課その他賦課金の未納に基づく一切の負担を除去して、買主に何らの迷惑をかけないものとする~

つまり、完全な所有権の実現を妨げる
抵当権仮登記差押競売などの登記
決済時までに完全に抹消されている必要があります

または、実現可能性100パーセントのレベルでそれらを抹消できる登記書類を司法書士が預かることになります

 

場合によっては天候等の関係からか
土地の境界の確定作業
決済後に延期されたりします。

また、他にも
何かの条件が整わないうちに
決済が先行することがあります

信頼関係に基づいてのことなので、だめ、とは言いませんが。
ですが、
契約書にうたわれた権利義務を互いに果たしてからの決済というのがベストであることは間違いありません。

 

○決済当日の風景~こんなふうに

 

シンプル版(単純な売買のみ)の決済

 

  1. 当事者集合(司法書士は早く現場に着きたい)
  2. 契約内容の確認ざっと
  3. 登記用書類の説明をして記入
  4. 本人意思・人物・物件・実印印影等の確認
  5. 権利証などの確認
  6. 登記可能の宣言(それでは、どうぞ決済を)
  7. 売買の残代金の清算
  8. 仲介料金・登記費用・諸費用等の清算
  9. 所有権移転登記完了までの流れを再度説明
  10. 所有権が移転したことを再度説明
  11. 登記完了後の書類の引渡等の確認
  12. 解散

○決済時に司法書士が考えてること

 

世間に与えてるかもしれない印象
(書類預かるだけ。あとは、座ってる)
とは裏腹に
決済の時の司法書士の頭の中はけっこう忙しく活動しています

 

登記は、確かに、

  • いくつかの書類(委任状、登記原因証明情報など)をつくって
  • 署名捺印してもらい
  • いくつかの証明書(住民票、印鑑証明書など)を取り寄せ
  • 申請書を作り収入印紙を貼り
  • 登記所窓口に提出したら
  • あとは登記完了まで待っていればOKと。

そんな感じではあります。

で・す・が

○それだけでは、充分とは言えない

 

書類が整わないのは論外としても、

・印鑑が違う(登録されていない印鑑を実印と勘違いしてそれを持参)

・権利証が違う(権利証だと思っていたものが単なる登記簿謄本だったりとか)
このようなこともたまにはあります。

ですが、それら目で見えることだけを確認するのは
素人さんでもできるレベル1の確認に過ぎません。

 

○では、何をしているのか

 

俗に、司法書士の義務として、
人・物・意思の確認
といわれます。

 

○人の確認

登記権利者または登記義務者として目の前にいる人が
たしかにその人本人であるのか

写真付きの証明書で確認します。
それらをお持ちでないときは、
保険証とかで確認せざるを得ませんが
そのときはけっこう緊張します

特に年齢不相応に若く見える、とか、老けすぎだったり
(大きなお世話ですが。写真がないとなれば本人である確証、少なくても偽物ではないという確証がほしいので。)

 

○物の確認

 

物とは、売買する不動産のことです。

これを間違える人がいるとは信じられないとお思いでしょうが。

けっこうあります。

決済時に公図を示して、
「こちらの土地ですね。」
と確認するのですが、

「ええっっっっ?隣ですけど。」
とか
「向かい側ですけど。」

とか。
時々、あります。

契約書にかかれている番地を地図上にお示ししているわけですが。

単に、契約書の記載ミスであればともかく
売主買主の意向が異なっていることもあります
この土地ではなく別の土地のつもりだったのにということです。

 

決済の現場で物件違いとなったときに、かつては一旦解散して取引延期となったわけですが。
ここ10年ほどはインターネットで登記内容の閲覧ができるようになったため このようなときも何とかすることができます。
というか
何とかすることを求められることが多いです。

単に、契約書の誤記であれば、大丈夫。
決済場所から登記内容を閲覧確認し所有者が同じであれば決済続行することが可能です

あとは、宅地への侵入路が私道で、移転物件に入っていないということもあります。その点をきちんと了承の上で所有権を移転するのであればよいのですが。
そうではなくて
建築予定であるのに侵入路がないばかりに
建物が建てられない土地だったりしたら
「それを知っていたら買わなかった」
ということになります。

 

それらを含めて

当事者が意図した物件を
意図した意味合いで
所有権移転ができるように

いろいろと深読みしつつ推し量りつつ目を光らせ心を配るのが決済時の司法書士のしごとです。

○モノの確認が万全ではなかった場合

 

ここの詰めが甘いまま、
間違った登記が完了して数十年たってしまった、ということがあります。

意図したとおりの登記がされたと思って数十年。
その誤りに気づいたときは
すでにどちらかあるいは双方が亡くなっていた

ということもあります。

さあ相続をしよう、というタイミングで登記が間違っていたことに気がついて相談にお見えになる。という流れです。
相続人同士で話をしてもらい同じような利害関係であるため大した問題もなく無事に落着したこともあります。
(落着しないこともあります)

 

また、代理人に全てを委任した結果
代理人がきちんと物件を把握していないこともあります。
残念ですが

 

売主側であれば、こちら側もしつこく売主本人に対して売却物件について確認します。
しかし、買主側に代理人弁護士などがついたときは電話で本人確認をしても「弁護士に全部任せてあるから」の一点張りです。
よって、それ以上の確認ができないことがあります。

その結果、数年経過してから、
買ったはずの物件の名義が変更されていない!
というクレームを頂くことがあります。

また、代理人ではなく、買主本人に対して何度も物件の確認をしているのにも関わらず、
買ったはずの物件が登記からもれている
という苦情
をいただくこともあります。

で・す・が

契約書にも記載されてなく当事者からも何らの申述がないとしたらそれ以上のことは司法書士にはわかりません。

基本的に司法書士は現場に赴いて物件の調査をするということはしません。
司法書士報酬体系はそのようには設計されておらず
注意義務はあくまで本人の意思確認を含めた書類上の確認にとどまります。

 

○売買契約書はとても大事なものなので

 

ともかく、
購入したつもりの物件が売買契約書に記載されていないとしたら
それにも関わらずそこに署名捺印をしたのは
当事者ご本人だったのではないでしょうか?

 

物件がもれているとしたら、
追加記載を要求するべきでしたし
そのままの状態で署名捺印するべきではありませんでしたね。

 

「専門家ではないからわからない、そのために司法書士がいる!」
とおっしゃったそこのあなた。

物件の確認さえ満足に出来ない状態だったとしたら
そもそも不動産の売買契約をすべきではなかったのかもしれません。

 

 

○意思の確認

 

これは、

  1. この不動産を
  2. この人(相手方)に対して
  3. どうするのか(売り渡すまたは無償で譲渡するなど)

ということの意思を確認します。

 

この人じゃいや。(この人には売りたくない)
というのもあって、実は微妙に気を使うのですが。
意思の確認には当然相手方の氏名も含まれるので外せません。

 

また、売るのか贈与するのかについては
お金が動くかどうかの差異に過ぎないので確認は簡単ですが。

貸すつもりだっただけで売るわけではない。
とか
その逆もあります。

貸してくれとは言ったけど、
買うと言った覚えはない、という感じ。

 

さらに、変わり種というか。

売るとは、言ったけど、登記はするつもりがない
と主張する方もいました。
これは、意思の確認に必要と言われたから実印印鑑証明権利証身分証明書を持参しただけであって登記簿の名義までを変えるつもりまではない、とのご意見
これは、こちら側ではどうすることも出来ないのでそのまま一同解散しました。

おそらく、売買のお金だけ動いて登記はそのままで
ずーっと何年か経過後に
(買主または売主が亡くなってから)

「買ったはずなのに登記がされていません。」

「売ったはずなのにまだ亡き父の名義のままです。」

などの相談がなされるパターンです。

 

○さて、司法書士の注意義務の範囲はどこまでなのか

 

決済の時に、意思の確認(物件の確認を含め)を厳格に行うと司法書士の越権行為なのではないか と苦情をうけることもないとは言えません。

売買契約書があるのにそれ以上のあれこれに口を出すのは、司法書士としての権限を逸脱しているのではないか、というものです。

ですが、大昔の代書屋時代とは異なり、いまや

取引が円滑に安全に誤りなく
かつ
当事者の意向を正確に反映すべく行われるように

司法書士という職能は存在しています。

司法書士のアドバイスというか、何気ない(実は決して何気なくはない戦略的つぶやきですが)ひとことで実際に取引が中止になることもあります。

だから、
「司法書士は黙って座っててくれればいい」
といわれることがあります。

しかし、売るつもりではなかったのに
たとえば売買登記がされてしまったとしたら、
どうでしょう?

当事者が声を上げてくれなければ、
司法書士がその意思を丁寧に確認していなければ、
売買登記がされてしまったわけです。

(多分、これは、意思確認の問題というより犯罪行為そのものでしたね。)