生前作成の分割協議書は有効か

被相続人がまだ生存中に作成された
遺産分割協議書は
はたして有効なのでしょうか

 

相続は、被相続人の死亡によって開始します

相続開始(死亡)によって、
相続人が確定し、
財産も債務も確定するわけです

なので、

相続開始以前(生前)になされた
遺産分割協議は基本、無効ということになります

理屈としては、
相続人も、
財産・債務も
いわば不確定の状態でなされた協議だから
無効、ということです。

 

開業して26年にして初めて、
死亡日よりも数年前に作成された日付の
遺産分割協議書に対面しました。

理論的には世の中何でもありなのでしょうが
びっくりしました。
生前に分割協議をするという発想がなかったので。

 

ただし、これはこれで、個人的には
かなりの意義があることを認めるものです

税理士ともゆっくり相談ができるし、
当事者(相続人)の意向もじっくりと確認調整することができます。

なにより、亡くなっていく人にとっては、
大きな安心材料となります
おそらくその方の最後の望みは、
自分の死後相続人の間で無用の争いが起こらず
皆が仲良く暮らしていくことでしょう

また誰かが暮らしに困ったりすることがないようにできるだけ万全の備えをしておきたいものでしょう
そのようなこと心配ごとが、事前の話し合いで
回避されます(まあ、相続人全員が満足の行く相続財産が残されているというのも、万人に望めることではないのですが。)

これが、同じ内容だとしても遺言書だと、
少々意味合いが違ってきます

仮に事前に相続人全員の同意を得て遺言書を作成したとしても
やはり、
協議書とは決定的に異なる点があり

協議書は、関係各当事者に相談の上で
全員が了承の上、で
協議を完了する、
というところに大事な意味があります。

遺言書ならば、あとで、
勝手に書かれた納得できない」ということも
あるでしょうが、

印鑑証明付きの分割協議書で、
偽造された、本意ではない」、などということは通常はありません。

生前作成ということで、遺産分割協議書として無効であっても、
お互いに条件付き分割の合意としては、有効とする余地があります。
みんなで約束したでしょ、ということですね。

 

さて、その分割協議書ですが、
当然、被相続人の死亡日は
記載されていません。

 

作成日の時点で死亡日が記載されていれば
それはそれで、またユニークではあります
予知というか、ホラー、殺人事件?ということに!

 

不謹慎な冗談はさておいて、

この案件については、幸いにも、相続人は
全員健在ということなので上記を説明して
分割協議および協議書作成のやり直しをお願いしました

 

日付を訂正するだけでは駄目ですか?というお尋ねがありました。

まあ、もっともな疑問ではありますが、
どう見ても生前に作成された遺産分割協議書を作成日付だけ訂正する、押されてあった捨印で直したものをそれを承知の上で登記を出す、というのは、司法書士としては、少々問題ありなのです。(ちょっと私にはできません)

本人申請であれば、
その協議書を使って自分たちで登記をするなら、問題ではありますが、たぶん、できないわけではないです。
作成日付の訂正は当然必要ですが。
登記は書類審査なので、訂正後のみの文書で判断する限り、問題とはみなされないと思います。裁判ではないので。

ただ、

協議書のみが無効なのではなくて(当然無効ですよ)そもそも、協議自体が無効なわけです。
だから、協議書の日付のみを訂正したところで、問題は解消されません。たとえば、令和と書くところを平成と書いてしまったなどとは、全く問題が異なります。

少々厳しいのでは、というご意見もありますが、

だめなものはだめ、ですね。

 

「そこになければないですね」というコンビニ店員の話法というものをどこかで目にし、感動しました。
いろいろ忖度しなければ、それが最適解ではないでしょうか。
あまりに感動が大きかったためそれ以後、コンビニ話法を積極的に取り入れるようになりました

・駄目なものは駄目ですね。
・できないものはできないですね。
・これで駄目ならウチではむりですね。等々。。  

業務のストレス激減・感謝・感激

 

協議の内容が
死後でも全く変更がない
だから、死後に追認したということで
死亡前の日付であっても有効なのではないか
というご意見もあるようです。

たしかに判例では、
死亡後に相続人がその協議書内容を追認したと認められるのであれば生前作成の協議書は有効となる余地がある
というものがあるようですが、

登記所には、
その追認の事実を確認する手段がないため
(登記所は書類でのみ確認をするのです)
そのままでは、登記は通らないはずです。

どうしてもその生前分割協議書を活かしたいということならば、裁判(だとしても相手は国?)を起こすしかないかもです。

 

たしかに、生前に、財産等の分け方について話し合っておくのは大変にけっこうなことだと思います
そして死後もその話し合った内容が維持されているのは、さらに素晴らしいことだと思います。
被相続人がなくなった途端に、手のひらを返すように態度を変える人が少なくはない、と言われているので、なおさらです。

が、

家族の結束が固いのは素晴らしいことですが
それと法的に正当な書類を作るということは
全く別のことです。

遺産分割協議というものが
法律行為である以上
法的要件が要求されるのは、ある意味
仕方ないところです。

 

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