登記と土地代金の支払いは同時履行?

 

例えば、土地の売買。

すなわち、これが意味するところは、

売る人Aさんから、買う人Bさんへ、土地の所有権は移転します。
一方、
Bさんから、Aさんへ、土地の代金が支払われます。

要は、それがゴールなのですが、
その目的を達成するためには、次のような流れになることが多いです

まずは、契約をします

多くの場合、まず、土地売買契約を交わします。
その際にいくらかの手付金を支払い、
例えば一カ月後の、○月○日に残金の決済をする、と言う感じで、段取りを決めて、
それに従って、当事者は、その日に向けて、それぞれ必要な行動を起こします

  • 土地の境界が不明確であれば、測量をしてもらったり、
  • 貸し金庫から権利書を出したり、
  • 印鑑証明書を取り寄せたり、
  • 戸籍の附票を取り寄せたり、
  • 司法書士に立会の期日を連絡して、予約をとったり、

ケースに応じて様々な作業が必要です。

そして、残金決済日。

多くの場合は、司法書士が、その残金決済に立ち会い、
登記に必要な書類の全てを預かることになります。

その司法書士からのゴーサインをもって残金が支払われ、
必要ならば、その中から抵当権等の抹消金が金融機関に弁済されたり、
或いは決済代金を、買主が銀行からの融資を受けて支払うこともあります。

いずれの場合も、
「司法書士によって書類及び当事者の意思が確認されること」
をもって、お金が動きます。

しかし、権利証はその場ですぐには出来上がらない!

司法書士はその際、登記に必要な全書類を預かるだけで、
お金との同時履行であるべき(というか、そうでありたい)権利証、は
すぐに出来上がるわけではありません。

その場で司法書士がチャチャチャっと作る、と勘違いなさってる方もおいでですが、
そのようにはことは進みません。

あくまで、司法書士は、登記所(法務局)に対して、当事者AさんBさんの代わりに
「このような権利の移動があったので、そのように登記をしてください」
という、登記申請書(添付書類がいろいろあります)を提出するだけです。

小さな登記所であれば待っている間に登記が完了し、権利書(正確には、登記識別情報通知といいます)がその場で出来上がるそうですが、多くは、数日から2、3週間を要します。

その間、買主さんは、お金を支払ったのに
もしかしたら、権利書が出来上がらないかもしれない、
という不安と
向き合っていただくことになります。

~~冗談です。大丈夫です。

 

売買代金と同時履行されるのは、「所有権」であって、権利書~登記識別情報通知、という名の物理的に質量を備えたモノそれ自体では、ありません。

おそらくほとんどの売買契約書には、
「残金全額の支払いと同時に、所有権は買主に移転する」
という条文があるかと思いますが、それはこのことを指しています。

なのに、お金を払ったのにまだ自分のものになってない!

 

土地の所有権が移転するというのは、
その土地の権利が、
AさんからBさんに移転するということです

権利証がまだ出来上がってないから、自分のものになっていない
登記が終わってないから、自分のものになっていない

というのは違います。ご安心ください。

 

ただし、どうしても、権利証ができていないことが心配で
権利証が出来上がってからでないと決済金(残金の全額)を支払いたくない
という方もいらっしゃいます。

「お金は権利証・登記識別情報(所有権ではなくて)と引き換えでないと払えない」

ということなのですね。
その心配なお気持ちはわからないこともないですし、
一見、その方が、合理的なようにお思いかもしれませんが、

たとえば、Aさん(売主さま)の身になってみて下さい。

お金をもらわないで、名義を買主さまに移せますか。

ですが、このようなときに、長い話し合いの果てに、根負けするのでしょうね、
売主さま(Aさん)が
残金の決済前の登記」
に同意して、決済前に登記の申請をするように依頼されることがあります。

権利証が出来上がったら、それと引換に残金をやりとりする
という流れです。

しかし、これでは、

登記名義が買主さま(Bさん)になったというのに、
お金を払ってもらえない、
というリスク、があります。

払わないで逃げるわけがない、と思いたいですが、何があるかわかりません。

  • 権利書ができたのに、途中で気が変わってやっぱりやめる、ということになるかもしれません。
  • 銀行へ向かったその足で交通事故にあって死んでしまうかもしれません。
  • 支払おうとしていたお金を強盗に取られてしまうかもしれません。
    怖いですね。

    では、同時履行にリスクはないのか

    これに比べると、同時履行した方は、かなりリスクは低いですが、
    それでもゼロではありません。
    お金を払ったのに、名義が変わらない、というリスクですね。

    土地の残代金全額を登記書類一式と引換えに支払って、これで、あとは、
    登記完了を待つばかり、のはずですが。

  • 司法書士が何かまずいことをやって(!)登記ができなかった。
  • 決済後登記を申請するわずかの間に、二重売買されて第三者に売られてしまい、他の司法書士に先に登記を出されてしまった。
  • または、天変地異が起こって、登記所が通常業務を行えなくなって、
    登記ができなくなってしまった。など。本当に怖いです。

可能性の話です。少し脅かし過ぎかもですね。基本的にないです。開業以来、ただの一度も無いです。
そのために司法書士がいると思ってくださってけっこうです。
ただ、そんなことも可能性としてはありますよ、という話です

最後は信頼関係なのか

つまりは、オンライン申請をもってしても、完全に大丈夫ということは言えません。

一瞬の間、というものは常に存在し、そのリスクをゼロにすることは
人間である私達にはできることではありません。
私達というのは、司法書士、という意味ではなくて、
人間界の全ての人たちという意味です

開業した当初、こうしたジレンマの間で仲介業者さんたちはどうなさっているのか、伺った事があります。つまり、どのように上手に説明するのか。あるいは、説得なさるのか。イイクルメルノカ。。。

結果、

「あまりにも疑い深い人は、不動産を買えない。」

という回答を得ました。
それから、20年あまり経過しましたが、現在の私の感想も同じです。

疑ったらきりがない、
それなら、
不動産を買うのは、やめておいたほうがいい。

怪しい人からは買わない。怪しい人には頼まない。
それだけのことです。

その方が本人も関係者も平和です。
ほんとうに、最後は信頼関係しかありません。

 

もしも、上記のような不測の事態が起こった時でも、
仲介業者さんや、関係者が、それぞれの役割をきちんとこなしさえするならば、
どうでしょう?
適切な解決策を、必ず見つけることができると思いませんか。