登記は権利なのか義務なのか

登記は権利なのか義務なのか

 

土地を買ったら

 

土地を購入したら、つまり、売買契約をして代金を支払ったら、登記をして名義を変える。この登記をする、という部分が司法書士の仕事です。なので、これまでずっとこの流れが一般的なことと思っていました。

 

登記とお金の同時履行

 

というか、むしろ通常は、代金を支払うタイミングで登記の書類が整っていることを司法書士が確認して、「書類OK」のゴーサインで、残金が支払われることがほとんどだと思います。

なぜなら、多くの場合、登記はすぐに完了するものではありません。

登記が即時完了すれば問題はないのですが、そうもいかないため、司法書士が決済の現場で、取引の安全装置的な立ち位置にいることが多いです。

 

登記の完了に時間がかかる

 

田舎の登記所だと、見ているそばでたちどころに登記が完了するところもあるそうです。ですが、都市部だと数週間を要するところもあります。

最寄りの登記所でも、季節的な変動があって、早いときなら2日くらいで完了することもありますが、1週間以上かかることもあります。(お盆時期はほぼ即日。3月などは、1週間では完了しないことが多い)

 

売主のリスク

 

なので、登記の完了をまって代金の授受を行う、ということは売り主にとってリスクが大きいわけです。(売買代金を受けとれないリスク)

(買い主に悪意がなくても、登記完了を待っている間に事故か天変地異でお金が支払えなくなることもあります)

 

買主のリスク

 

反対に、先にお金を払ってしまい、登記はあとでゆっくり、などと悠長に構えていると、これはこれで問題です。

登記をしない間に売り主に何かあったり、(急死するとか、会社なら破産するとか差し押さえをされてしまうとか)すぐには登記ができなくなったりするわけです。

 

登記のタイミング

 

なので、登記はどのタイミングですればよいですか、とお尋ねがあると、残金決済時がベスト。とお答えします。

これが、売主、買主、どちらにとってもリスクが最小限に抑えられるからです。

 

それはそれとして。

 

名義を変えなくても良いのか

 

土地を買ったら、そしてお金を払ったら、自分の名義にしたいと思うのは、それが人情だろう、と思っていましたが、

「名義を変えないとダメなのか?」

と買主さんの方からお尋ねをいただきました。目からウロコです。

 

曰く、

名義が変わったらいろいろ面倒みたいだし、登記の費用も何十万もかかるっぽいし、やらなくてもいいなら、やらないで済ませたい。金は払ったし。

 

というご相談でした。

 

いちいち指摘されてみればごもっとも。なのかもしれません。

 

普通は、登記は買主Aさん(お金を払ったほう)にとっては権利であるし、売主Bカンパニー(土地を手放すほう)にとっては、義務である。というように理解されています。

 

そもそも売買契約をして代金全額を支払ったのに、登記の名義が前所有者のまま、というのは、両方にとって気分のよいものではないと思うのですが。

 

必要が生じたタイミングでいずれは買主名義に登記をすることになるとは思いますが、そのタイミングで登記ができるかどうかは、これもまた微妙、と言わざるを得ません。

 

このような感じです。

 

名義を変えようとしても

 

数年たって、買主Aさんはその土地を第三者に売却することになり、それに先立って登記上の名義を自分に変える必要が生じたとします。

前所有者Bカンパニー担当者にその旨を伝えて必要書類一式を預かりさえすれば、登記は簡単にできるはずです。

 

ところが、その会社はどうしたことか、連絡がつきません。あわてて登記簿を請求してみると、なんと、登記がされていません。

びっくりして探し回った挙げ句に、何のことはない。社名をCコーポレーションと変えて、本店も他県に移転していただけだということが判明し、一件落着するかに見えたのですが。

Bカンパニーだった会社、Cコーポレーションは社名だけではなく役員も全員入れ替わっており、当時を知る担当者も一人も残っていません。すなわち、会社の売買が行われたようなのでした。

 

さてここで問題です。

 

もしも売主が協力を拒んだら

 

Cコーポレーションが誠意をもってことにあたってくれれば、問題なく登記はできます。

たとえ、社名や役員や本店場所が変わっていても大丈夫です。

権利証が紛失していても問題ありません。

 

ですが。万が一、Cコーポレーションに協力する気が全然なかったとしたら、

これはもう、裁判を起こすしかありません。

Aさんが、当時の売買契約書や領収書のコピーなどを保存していれば裁判で勝つことは間違いないと思いますが、そのような証拠さえも保管してなかったとしたら、ちょっときびしい裁判になるかもしれないです。ほとんどの場合、そのような大事な書類を紛失することは考えられませんから大丈夫だとは思いますが。

権利証や何やらの重要書類を紛失してる人の数は、
おそらく一般の方の予想をはるかに超えています。

 

あるいは。

 

売主側からの裁判

 

いつまでたっても買主名義にしてくれないときに、売主が裁判を起こすこともあります。「買主は、売主に対し、(売主を登記義務者、買主を登記権利者として)売主から買主への所有権移転登記をせよ」、という判決をもらって、売主が単独で買主名義にすることができるという裁判です。

 

これは、珍しい裁判だと思います。当職も、数年前に初めてこの判決に遭遇しました。裁判所にとってもあまり見かけないパターンだったためか判決が登記できるかどうかがが微妙な言い回しだったために、判決文の更正をお願いして登記に至ったという経緯があります。

 

面倒ですが、これをしないといつまでたっても登記簿に前所有者が所有者として残ってしまい、例えば、前所有者に相続が発生した場合など、事情をしらない子孫が何が何だかわからず途方にくれる、などということがあります。

よくあります。

そのようなことのないように、面倒でも多少の費用がかかっても、登記名義はできるだけすみやかに変更しておいたほうがよいと思うのです。

 

では、権利なのか義務なのか

 

こうなってくると、どちらが権利で義務なのか。

結局、権利も義務も、表裏一体ということです。

 

あくまで登記申請書には、権利者(買主)義務者(売主)と書きますが、どちらにも権利があり、どちらにも義務があるということだと思います。

 

まとめとして

 

不動産を買ったら、買主はご自分の権利を守るために、できるだけ速やかにご自分名義に登記を書き換えましょう。

売主は、将来の煩雑なことを避けるために、買主への名義変更を強力に勧めましょう。忘れていたり、後回しにしたりしていたら、一言注意してあげて下さい。登記名義はきちんと書き換えましょう。

 

思いあたる方、ご心配な方は、どうぞご相談ください。