登記識別情報とは、何?

 

 

平成18年に登記制度の大幅な改正がなされ、それ以来、紙の権利書(登記済証)のかわりに、登記識別情報が通知されることとなりました。もうご覧になった方も多いのではないでしょうか。

ですが、重要なのは、その通知された紙ではなく、
(紙の登記識別情報通知の場合)シールで覆われた情報です。(12ケタ英数字)

権利証とは違うの?

ちなみに、以前、権利証といっていたものは、登記上は、登記済証というのが正式な言い方です。よって、新しい登記識別情報通知書も、紙に印刷されてさえいれば、権利証といってしまっても間違いとは言えません。現在でも、その方が話の通りがよいような気がします

というわけで、登記識別情報とは、売買や相続などで権利を得たときに、
法務局から発行される12ケタの英数字の組み合わせ、のことです。

どんな感じですか

その形態により二種類の識別情報があります。

  •  オンライン申請(コンピュータでの申請)で、「情報を通知」するように指定すると、そのパソコンに情報が通知されてきます(このときは、紙の通知書はありません。プリントすることはできます)
  •  登記時に、「紙の通知書を発行」するように指定すると、A4特殊サイズの紙の下部に、折りたたみ式の横長のシールが貼られたものが発行されます。
    登記受付番号と権利を得た人の住所氏名、不動産の表示が書かれています。そして、シールで覆われた部分に秘密の暗号 が隠されています。いえ、冗談です。秘密の暗号ならば、解読もできるでしょうが、これは単に、ハッシュ関数だったかによる(なんのことだかよくわかりませんが)12ケタの英語数字のアトランダム的な組み合わせが表示されているだけです。

どんなときに必要ですか?

これを次のように使います。

不動産を売却することになったとき、または抵当権を設定するときなど、殆どの場合、印鑑証明書や実印を要求される登記の際に使います。
司法書士に頼む場合は、司法書士に渡します。

司法書士は

  • 紙で登記申請をする際は、シールをはがした状態でコピーをとり、それを封筒にいれて、封をして、登記の際に添付することによって、登記情報の提供をします。そのコピーは、登記後に法務局で裁断処理される、と言われています。
  • コンピュータにてオンライン申請をするときは、その情報(12ケタ)をパソコンから打ち込みます。

    発行しないという選択ができるのですか

なお、情報である限り、不測の事態が発生する可能性を排除できないので、登記時に、識別情報を通知しない、ことを選択することができます。(識別情報の不発行)

これなら、識別情報通知書を紛失したり、誰かに情報を盗み取られたり、盗み見られたり、といった心配が全くなくなります。(存在しないのですから)

ただし、不発行を選択した場合、後日、やっぱり識別情報がほしい、となったときでも発行はしてもらえないことにご注意ください。

あるいは、いったん情報が発行されてしまっても、やはりこれは面倒だという理由で、法務局に対して失効の申し出をすることができます。

これは、発行された情報の効力を失わせる、という申し出です。
所有者の実印および印鑑証明書が必要な手続きです。(やたらに、他人の識別情報の失効はできません。)こちらも、再発行はできません。

どうすればそれが本物だとわかりますか?

さて、登記の際に司法書士は所有者によって提供された登記識別情報が本物である(登記の際に法務局から通知された12ケタであるということ)かどうか、
どのようにして知ることができるのでしょうか。
実は、驚くべきことに、

司法書士にもわからない

のです。

とほほ、ですが、これが、国がオンライン政府を目指した成果なのです。(私見ですが)

下準備が整わないうちに見切り発車をしてしまった結果、このような事態を招きました。

いまだに印鑑証明書が必要であり、住民票は役所(コンビニエンスストアで取得できるところもありますが)で取らなければならず、不動産価格も市役所がオンラインで公示しておらず、電子証明書を添付するにも面倒な作業 が必要で、これで登記をオンラインで、とは、大胆極まりない法改正でしたが。 改正されてしまったので。

司法書士もできる限りの努力をしています。まず、売買の決済の前に12ケタを提供してもらうことができれば、司法書士はそれらを用いて、法務局に対して有効かどうかの確認請求ができます。或いは失効されていないことの証明請求もすることができます。

紙の通知がシールをはがさない状態のままそこにあっても、失効の申し出がなされているかどうかは、法務局のコンピュータにしかわからないことなのです。
せめて失効の申し出がされてないという確認 だけでもしたいのが人情です。俗に未失効証明と言っていますが、失効確認時に失効されていないかどうかがわかるだけ。

このようなことを、とほほ、という以外に何か表現方法があるでしょうか。
有効証明というものもありますが、お金のやり取りも済んでないのに、事前に識別情報を開示してもらうことに快く同意してくださる方ばかりとは限りません。とほほ。。。

せめてこれだけでも

内輪の愚痴を言ってもどうにもならないので、そこで、司法書士としては、せめてその通知が発行された際のシールをはがさないでもらいたい、と強く願うものです。

少なくても、誰も、その情報を知らないことだけは確実なわけなのですから。

とは言っても二重売買の危険性は依然としてあるのですが。
(登記識別情報を使わなくても登記はできるので)

改正前の権利証との違いは?

  • 紙でなく、単なる情報12ケタの英数字に過ぎないので、印刷されたものをコピーするのは簡単。無数に複製を作ることができます。
    紙の権利書はカラーコピーしたものを本物と偽ると犯罪ですが、
    情報通知は普通にコピーしてから使われます。
  • よって、紙の権利書は一通しか存在できませんが、紙の登記情報は、同じものが無数に存在できます(通知は一個)
  • 紙の権利書には、失効制度がありません。失効したい人は焼却などすればいいだけです。ま、これは、失効とは言わないですが。
  • よほど精巧に偽造されていない限り、紙の権利書は本物かどうか大体わかります。しかし、登記情報は、厳密に言えば本物かどうかはわかりません。特に、予めコピーされたものをお持ちになる方もいますが、これは、はっきり言って怖いです。

だとしたら、売買登記は冒険ですね?

予めコピーされたものを持参したのが、初めてお会いする方だとしたら、私なら、お引き受けしません。

ですが、「登記識別情報のもつ性質上、問題が生じる可能性が紙の権利証よりも高い」、と業界に関わる人が皆思っているので、コピーだけを持参されるということは稀です。

ただ、長年のお付き合いある業者さん(信頼関係ができている)から、
「当日、登記が重なっているので、(ほかの司法書士が同じ識別情報を使って、別の不動産の登記をする、ということ)コピーでもいいですか」と、前もって打診があって、それからコピーを預かる、ということはけっこうあります。

まあ、少し斜に構えて言ってしまうと、司法書士は、世の中の人はほとんどが善人である、という性善説に則って仕事をしている、とご理解ください
(とはいっても、万が一のことを考えて、それぞれに対策をとっていますから大丈夫です。ご安心ください)

では、保管上の注意はありますか?

貸し金庫がいいのではないでしょうか。
ですが、さらに選択肢として、識別情報を失効させる。または、権利書を焼却処分する。ことです。
そうしてしまえば、他人に悪用される危険性 はゼロになります。

これが宝石や金銀財宝の保管の仕方と決定的に違う所、です。

不動産であれば、もしも、売却することになったりして必要になったときはそれなりの手続きがありますから、それに従えばよいだけです。
権利書の保管場所に困る、とか、登記識別情報の管理が困難などと頭を悩ますよりは、その方がよいかも知れません。実際、そのようにしている方もいらっしゃいます

もしも私が別荘を購入したとしたら識別情報を不発行にすることに躊躇はありません。
管理するものは一つでも少ない方がよいので。

大事なことは

大事なことを言い忘れるところでしたが、権利証または識別情報は、所有権そのものではありません。

権利書をなくしても、識別情報を不発行にしたり、失効申し出をしたとしても、その名前が所有者として法務局のコンピュータに記録されている限り、
所有権がなくなるものではありません。

ご安心ください。