相続放棄したのに逃れられない義務がある?

相続放棄したのに逃れられない義務とは?

相続放棄とは

 

これは、裁判所で、
相続放棄申述受理受付書
(または証明書)

を取得したという意味での、
いわば、正式な相続放棄のことです。

よく3ヶ月以内でないと放棄できない、
と言われますが、
その放棄のことです。

遺産分割協議の結果、
「私は何ももらわない」という意味での
放棄とは違います

 

こうした場合、よく世間では、「わたしは全部放棄して兄がひとりで相続したのよ」などと言ったりしますが、このフレーズだけでは、本当に裁判所で放棄したのか、単に積極財産を何ももらわないという分割協議をしたという意味なのか、わかりません。

放棄の書類を紛失したらしい

放棄をしたのか紛失したのかどうなのか
忘れてしまっている場合は
多少時間がかかりますが、
裁判所に
放棄の事実があるかどうか
問い合わせることができます。

あまり大昔だと記録が廃棄されていて
できないこともあります。

 

裁判所の書類は
用が済んだら全部捨ててしまって
さっぱりしたい!というお気持ちは
わかりますが、
このような放棄の書類などは、絶対、
捨ててほしくないものの筆頭です。

 

先日も、5人の相続人の内4人が相続放棄しているので、その放棄の申述受理証明書さえあれば、相続登記がかんたんにできた事例がありました。

4人が相続放棄したことは間違いないとのことです。

その方たちは既に亡くなっており、
法定相続人は30人近くに増えています。
申述受理証明書がないと
その30人近くの人たち全員から
遺産分割協議書に署名捺印印鑑証明書を
もらわないといけないのです。

 

結局、手元にはない。ということで、裁判所で相続放棄申述受理証明書の再取得を試みたのですが、なんと保存年限経過(放棄したのは、何十年も昔のことです。死亡日から推し量るに)のため、発行できないとのこと。

約30人分の書類の収集はかなりのエネルギーが必要です。

 

余談ですが、この場合は
エネルギーだけではなく、天の加護があったのでしょう。
30人全員が気持ちよくハンコを押してくれるというのは、通常、
かなり稀なケースと言わざるを得ません。
行方不明の人や交際を断絶している人もなく、
お金をくれないとイヤ、とゴネる人もなく、
信じられないほど短期間で書類を揃えてこられました。

 

放棄の書類は、もういらないと思っても
保存なさることをおすすめします

保存年限の目安は
2世代くらい(5,60年)

余裕があれば、ずっと。

遺産分割協議で、何も取得しないという選択

 

さて、一方、

遺産分割協議による
「放棄をしました(何も相続しません)」
の場合
は、
だからマイナス財産も取得しない、
という訳には行きません。

プラスの財産を何も取得しないのだから
マイナスも相続しないのは当たり前、
と考えがちですが、法律の運用は
私達多くの場合の常識感覚とは異なります

ですが、

相続人たちの間で、
債務は長男が全部引き受ける」
という協議をすることは可能です。
しかし債権者(銀行とか。お金貸しの人)
の承諾なしでは、それを主張することは
できません。

 

つまり、裁判所で放棄をしない限り、
財産を何も相続してないのに、
債務を相続してしまう
(というか債務を相続させられてしまう)
可能性は否定できません。

 

相続放棄をしましたが

 

で、裁判所で放棄をしたので、
積極財産も消極財産もすべて
相続しないことになった、
とひと安心したあなた。

残念な法律があります。


民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

2 第645条、第646条、第650条第1項及び第2項並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。


 

たとえば、近頃よくある例では、相続人が全員放棄したことによって相続人が不存在となった古い建物。
この2階部分が崩落して通行人に怪我をさせた場合。

相続放棄してしまったので、相続権者だった人がこの所有権を取得することはありませんが、自己の財産におけるのと同一の注意が求められているので、損害賠償請求をされる可能性があります。

 

もうひとつ。

被相続人の
未納の固定資産税を請求されることが
あります。

 

相続放棄してしまえば、
将来に向かって請求されることは
ありませんが
相続放棄のタイミングによっては、
納税義務を逃れられないことがあります。

地方税法第343条「台帳課税主義の原則」