相続放棄者の責任(法改正後)

相続放棄者の責任とは(民法改正後)

特に空き家問題に関連して

 

(相続の放棄の効力)
民法939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなす。

さらに最高裁判例(昭和42年)として
相続の放棄は、登記等の有無を問わず、何人に対しても、その効力を生ずる。

というのがありますが、
ありますのに!

 

相続放棄(家庭裁判所への申述)をしたからといって、
一切の責任義務を放棄できるわけではないです。
びつくりですが。

 

放棄をしても逃れられない義務があります

民法939条はどこに行った?と思ってしまいますね。

 

民法940条相続放棄をした者による管理という条項で、
放棄をしても管理義務が残るということが明文化されています

 

(相続の放棄をした者による管理)
現行民法940条1項
令和5年3月31日まで
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となったものが相続財産の管理を始めることができるまで、
自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産の管理を継続しなければならない。

 

 

ただし、

 

この条文に関しては、民法改正がされました

 

一言でいえば、改正後は、
責任がかなり軽減される模様です

ただし、
施行されるのは、令和5年4月1日からです

 

(相続の放棄をした者による管理)
改正民法940条1項
(令和5年4月1日施行)
相続の放棄をした者は、
その放棄の時に相続財産に属する財産を
現に占有しているときは、
相続人または相続財産清算人(民法952条第1項)に対して当該財産を引き渡すまでの間、
自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければならない

 

現に占有する

改正後の法律では、

放棄した人は、
その遺産を占有してなかったときは責任を負わない、と明確に定められました。

相続放棄は相続による不利益を避けるためになされることが多いにも関わらず、
すべての遺産についてまで保存義務を負わせることは制度の趣旨にそぐわないから、と
されています

 

保存義務

また、保存義務については、
その財産を
滅失させたり損傷したりしないこと、が義務の内容であって、
最小限の保存義務にとどめられています。

建物が傷んだからといって、
積極的な補修義務まではないということです

 

施行後、実際にどのような感じで運用(法の解釈やどのように適用されるか)がなされるのかは微妙だと思いますが、
裁判で訴えられたときに940条1項を盾にすべての責任から逃れられるのかということ
現行法よりは、責任が軽くなることだけは間違いありません。

 

そもそも、現行法にしたところで、
空き家等の問題に対処するためにあるのではなく、あくまでも、
将来現れることが期待される相続人(的な存在)に対して引き渡しをするまでの保存義務でしかありません。

 

つまり、
(自分が放棄した)空き家問題で誰かに迷惑をかけてしまったときに、
その地域の住民に対しても同様の責任を負うべきか、といったらかなり微妙ということです。

現在のように、空き家問題が身近になることは、おそらく想定されていなかったのでしょう

 

ご注意
ただし、相続放棄した人は空家対策特別措置法3条の管理者に該当するらしいので、
適切な管理についての努力義務を要す、とされています。

 

空家等対策の推進に関する特別措置法
(空家等の所有者等の責務)
第3条
空家等の所有者または管理者は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする

(所有者等による空家等の適切な管理の促進)
第12条
市町村は、所有者等による空家等の適切な管理を促進するため、これらの者に対し、情報の提供、助言その他必要な援助を行うよう努めるものとする

 

ただし、放棄した人は既に相続人ではないので(第12条の所有者等に含まれない)
それらの助言指導勧告に従う必要はありません、法文の解釈としては。

 

引渡しによって義務は終了する

・自分が放棄すると次の順位の人が法定相続人とされます

その人達が相続するのであれば、
そのうちの誰か1人への引き渡しをすることで義務は終了です

・相続人が不明のとき
実質上、全ての相続人~第1順位、第2順位、第3順位の人(民法887条・民法889条・民法890条~これらの全員が放棄してしまったとき

このときは、相続財産清算人への引き渡しをすることになります

 

(相続財産の清算人の選任)
改正民法952条1項 
前条(第951条 相続人のあることが明らかでない時は相続財産は法人とする)の場合には
家庭裁判所は利害関係人または検察官の請求によって、相続財産清算人を選任しなければならない

 

・引渡しができないときは

相続人が財産の引渡しの受領を拒んだとき
または、これを受領することができない場合
放棄した人は供託することで義務を逃れることができます

空き家等の場合は、
裁判所(債務履行地の地方裁判所)の許可を得て、
競売に付し、その代金を供託することができるとされています(民法497条)

 

また、相続人が不明のときに、
相続財産清算人の選任をしないで、
債権者の受領不能を原因として供託をすることができるとされています (民法494条1項2号)

 

これからどうするか

いずれにしても、
相続放棄をした、これで安心!と思っていたのに
いきなり管理義務、などと言われてじゃあどうすればいいのか、
少しキレそうなあなたも、

この改正が、
多少なりとも安心材料となったのではないでしょうか

また、空き家問題だけではなく、
滞納している税金についても放棄したタイミング次第で、支払い義務が課せられることもあると聞きます

どこにどんな落とし穴が待っているのか
まったく現代社会は一寸先は闇のようです。

 

相続放棄については悩ましい問題がありそうですが、亡くなった方が多額の債務を抱えているなどで
どうしても他に選択肢がないこともあります

相続放棄をお考えの方は
どうぞお気軽にご相談ください

亡くなったことを知ってから、
3か月以内に裁判所への申述が必要です