調停、その前に

調停、その前に

 

遺産分割協議がうまくいかないときなど
当事者間をとりもってくれる人がいないときなどは、裁判所に調停手続きを申し立てることになります

当事者が協議に参加してくれない
または、意見がまとまらないときは
この道を進むしかありません。

ですが、

調停でまとまらないこともある

調停でも話がまとまらないときは
その問題は自動的に審判手続きへと移行
審判となったら、
話し合いではなく、

提出された書類に基づいて、裁判官が判断をすることになります
そうなると当事者の意思が反映されるのは、難しいです。

 

その審判の結果に満足がいかないときは
それに対して即時抗告という手段がありますが
当事者の意思の反映という側面からは、おそらく少々きびしい結果になるでしょう。

 

いずれにしても話し合いができないときは
まずは、調停、と反射的にお思いになるかもしれないですが、

ここで問題です

 

話し合いができない、とは?

一口に話し合いができないといっても
実際のところ、話ができないとは
具体的にはどういうことでしょうか

 

  • 電話をしても出てもらえない
  • 会いに行っても会ってもらえない
  • 手紙を出しても返事がもらえない
  • どこにいるのかわからない
  • 単純に行き来がない
  • 探してみたけど、わからない。身内や友人に行方を知ってる人がいない
  • 会っても、こちらの言い分に一切、耳を傾けてくれない
  • 事情を何度説明しても、血のつながった相続人は自分一人きりなのだから自分一人で相続したいと主張する

 

というように、話ができないレベルには、
初級から上級まであります

 

初級であれば、
実は話をしてみたら何のことはない
すんなり言い分が通った。ということは、割とあります

単純に行き来がなくなっていただけで、
そもそも争いはどこにもなかったということもあります

 

あとは、
初動のアプローチが悪くて、
単純な話をこじらせてしまった、というのがけっこう怖いことです

普通に(この場合の普通というのは、こじらせている側にとっての普通、のことです)筋を通してハンコを貰いにくれば気分よく押してやったのに妙なことをするから気持ちが素直になれなくなったというセリフはよく聞くところです

 

つまり、
居所を捜せば捜せる。
居所がわかれば訪ねていける
のであれば、
家庭裁判所に調停を申し立てるのは、最後の球が尽きてから。それからにしましょう。

 

調停は譲り合い

確かに家事調停は、低廉な費用で申し立てることができますが、
遺産分割調停などは、そろえるべき書類(戸籍一式・住民票・不動産登記記録・固定資産税評価証明書・預金残高証明書などなど)がいろいろあるので、
それを取り寄せるのに結構なエネルギー(お金と時間)が必要です

それを考えても、言うまでもないですが
当事者だけで解決するのが、ベストです

 

調停にすれば自分の思いが通してもらえる、
とお思いの方はまさかいないと思いますが、

あくまでも調停とは、
すなわち話し合いの場であって、つまりは
互いに譲り合う場ということになります

どちらも譲れなければ、
調停不成立。
審判に移行して
望んだものとは異なる結果となることは少なくはありません。

 

遺産分割調停について

裁判所が、
正しい、間違ってる、の判断をしてくれると思っている方がおいでですが、
これは全く違います

通常の裁判であれば、
認める、認めない、の判断をします
(そもそも裁判とは、それを判断するシステム)

しかし、家事調停で
善悪、正邪を判断することは基本、ありません。

なので、
相続人Aが自宅を相続すべきである、と調停委員会(裁判官)が判断する、ということはあり得ません。

刑事・民事事件と異なり、家事調停において
正しい人、間違ってる人というのはいないからです。

 

つまり、平たく言うと、

どう考えても相続人A以外は話を聞く限りあまりにもひどいので相続する資格がないので自宅を相続するのはAが相当であるなどと、万が一、調停委員会全員が心の中で思ったとしても、それが調停案として示されることはありません。

相続する資格がない、などというのは、
きっちり民法で定められていて、それ以外の理由によって単なる個人的な好悪の感情から相続人を排斥することは誰にも許されないからです。

 

民法891条
(相続人の欠格事由)

ざっくり言うと

  • 被相続人または他の相続人を殺そうとして刑に処せられた者
  • 被相続人が遺言するに際し、詐欺脅迫をした者
  • 遺言書を偽造変造破棄隠匿した者

これらに該当した人は相続人になれません

民法892条
(推定相続人の廃除)

こちらも平たく言うと

  • 被相続人に対して虐待または重大な侮辱を加えた者や
  • 著しい非行があったときなどに、裁判所から排除の審判を受けた者は相続人から排除される(遺言によっても廃除はできる)
    これらに該当したら、相続人になれません。また、廃除されると戸籍にその旨が記載されることになっています

 

こんな場合はどうなる?困った!

たとえば、分けるべき遺産が、

  • 長女が住んでいる自宅(故人名義)だけ
  • 預貯金なし。現金なし。
  • これを3人(長女・2女・3女)で調停手続きで分けるとしたら

 

長女は、当然、自宅は自分ひとりで相続したいと主張するでしょう。

こうしたとき、2女。3女は、それぞれ、
法定持分を現金で相続したい、と主張することが多いです

 

遺産に預貯金や現金があれば、
長女が家を相続してその代償金として2女3女はそれぞれ金○○円を取得する
というような、三者が納得する調停案が出来上がりますが

ですが、

この事案のように
現金預貯金がゼロであったり、そして、
長女にも代償金を支払うだけの資力がないとしたら、この案は少々難しいことになります

 

調停委員会からも適当な解決案が出されなければ、(遺産がそれしかないのであれば、どうにもなりません)
おそらくこのままだと、調停不成立ということで
審判に移行する可能性が大です

 

当事者間の協議であればどのように分けるのも自由なので

長女は自宅を相続する(2女3女は何も相続しない)という協議も問題ないですが、そうした審判がなされることはおそらくないのではないでしょうか。

 

調停を取り下げる

調停で決着がつかないとしたら、そして、
そんな満足できない審判をうけたくないということであれば、申立人が長女であれば、
長女には、調停を取り下げる、という手があります

取り下げると、最初から調停はなかったことになります
不成立の場合と違って審判に移行するということはありません

 

しかしながら、
取り下げができるのは申立人に限られているため

たとえば、申立人が2女であれば、
長女の側から取り下げをすることは不可能ということになります

 

結局(素人考えですが)3人で自宅を3分の1ずつ共有ということになろうかと思いますが、

これは、長女にとっては、過酷な結果と言わざるを得ません

 

なお、

令和5年4月1日から改正民法が施行されると
申立人が取り下げするにあたって、相手方の同意が必要になることがあります

相手方の同意が必要?

相手方の同意が必要になることがありますが
それは、ずっと先のハナシです

遺産分割をしないまま10年が経過すると
法定相続割合で分割されることになります
(調停や審判にした場合です)

つまり、
特別受益(結婚や養子縁組の時などにたくさんもらってるからそれを考慮する等)や寄与分(被相続人のために粉骨砕身して尽くした等)を加味して具体的な相続分を決めることができなくなります

(期間経過後の遺産分割における相続分)
改正民法904条の3 前3条の規定(特別受益や寄与分のこと)は相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

1 相続開始の時から10年(または、施行日から5年の場合もあり)を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき

2 相続開始の時から始まる10年の期間(または施行日から5年の場合もあり)の満了前6か月以内の間に、遺産の分割を請求できないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した日から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

たとえば

3000万を3人で分けるとき

Aは既に特別受益を受けているので
取り分はゼロとか、

Bは寄与分を加えて2000万相続するとか

そのような分け方ができなくなります。

特別受益や寄与分を考慮することができなくなるのでこのようなときでもこの3人の相続額は法定持分で1000万円ずつ、ということになります

これは、遺産分割調停・審判などによる分割についてのものです。
話し合いでの分割であれば、どのように分けるのも分けないのも自由です

つまり

令和5年4月1日以降に亡くなった方については、
まだ10年の余地があることになります

既に亡くなってしまっている人については
施行日(令和5年4月1日)から5年、
または、
相続開始後10年、の遅い方が特別受益や寄与分の主張が認められるリミットとなります

すなわち、

それを過ぎてしまってから申立人が勝手に取り下げできるとしたら、
同時に相手方の利益を奪うことにもなりかねないため、

この期間(10年または、5年)経過後にあっては、申立ての取り下げには相手方の同意が必要とされたわけです

家事事件手続法第273条(附則7条1項)
2 (略) 遺産の分割の調停申立ての取り下げは、相続開始の時から10年を経過した後(相続開始の時から始まる10年の期間の満了後に令和5年4月1日から5年の期間が満了する場合はそれを経過した後)にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。

 

 

ではどうする?

それぞれの事情があるため、どのような解決が最も良い道なのかは、それぞれに答えがあるのでしょうが、

調停をする前に、せめても話し合いを試みるべきではなかったでしょうか

 

話し合うまでもないから、
言っても通じる人じゃないから
ということでいきなり調停を申し立てたというような話もよく聞きますが
それはちょっといかがなものなのか、と
思います

 

調停という手続きを選ぶ前に、
一度でもよいのできちんと相続人全員で膝をまじえて話し合ってみる、それはそんなに
難しいことなのでしょうか

 

老婆心ながらヒントを。。

ヒント1 頭を下げるとよいです
ヒント2 すでに手にしているものに感謝するとよいです。当たり前だと思っていると、人に頭を下げられないです
ヒント3 頭を下げるとよいです