遺産。私は何もいらない、という選択

私は何もいらない、という選択をしたいとき

 

遺産相続とは

例えば、お父さんが亡くなって、お母さんと子どもが3人、合計4人が残された場合、この4人は、亡お父さんの法定相続人とされています

法定相続人とは、
亡くなった人の
「財産をもらう権利・借金を引き継ぐ義務」
がある人のことです。

 

民法で、法定相続人の範囲は決められています。また、その身分によって、相続分も決められています。

法定相続分は、上にあげた場合だと、
お母さんが全体の半分、子供はそれぞれ全体の6分の1ずつ、です。

例えば、1200万円の遺産があったら、単純に法定分割すると、
お母さん600万円 子供それぞれ200万円ずつ、となりますね。

遺産分割協議とは

ですが、遺産分割協議をすることによって、お母さんだけが相続することにしたり、全員が4分の1ずつ、等分に分けることにしたり、
法定相続分に関係なく、みんなの好きなように決めることができるのです。

ただし、4人全員がそれに同意しさえすれば。

(子供が未成年だった場合は、別途手続きが必要になります)

 

同意の証拠として、この協議内容を文書にして、そこに各自署名捺印をします。

実印を押し、印鑑証明書を全員分添付して完了です。

書類の作成は簡単なので、手書きの遺産分割協議書を、
登記用として
ご持参になる方もいらっしゃいます。

 

何ももらわない、という選択

 

ここで、「何もいらない」という選択をする人がいます。

 

密かに神の選択と名付けているのですが。

 

お父さんからは、もう、充分もらっているから、私は何もいらない。
遺産は、みんなで、分けてね。

 

という感じです。

 

どんな分割協議でも有効なのですか

 

ただし、お母さん以外は借金を相続しない、という協議は、
この相続人間では有効ですが、
債権者(例えば銀行とか、ローン会社など)に対しては主張できません。

お母さんだけが借金を返す場合は、別途、債権者との協議が必要です

もしも、債権者の同意が得られなければ、遺産分割協議でどのように協議されていても全員に返済義務があります

 

例えば、こんな感じに

 

「長女は何ももらわない代わりに、万が一、債務が発見された場合でもその責任を逃れる」

などという協議をしたとします。

お母さん及び子ども3人の全員でした協議なので、この4人の中では、この取り決めは有効です。

ですが、債権者の同意なしでされたこのような協議は、債権者に対して、主張することができません。

債権者はこのように

例えば、ワールド金融(仮名)が1000万円をお父さんに貸し付けていた場合、
ワールド金融は、この4人の相続人全員に対して1000万円の返済を求めることができるのです。

その際に、長女は、ほかの3人に対して、
「これは私には関係ないわよね」
と主張することはできるのですが、

ワールド金融に対しては拒むことができない、ということになります。

 

ご注意  以上は、法律上どうなっているか、という話で、実際上の運用は、ワールド金融次第です。
債権者としては、貸したものを返してさえもらえれば、細かいことはどうでもいい訳なので、相談には乗ってもらえます。
あきらめなくて、大丈夫。

 

では、私はどうすればよいのでしょうか

 

「財産も債務も、すべていらない」を実現するためには
裁判所に対して「相続放棄の申述」をすることができます。

これは、プラスの権利もマイナスの権利もすべて確定的に放棄してしまうという、
その人が最初から相続人ではなかったことにする、という手続きです。

 

放棄の申立が裁判所に受理されると、あとになってから、

「やっぱり全部放棄するのはやめる。お父さんはアタシにもこの土地を残したかったはずだもの。ほかは放棄してもいいけど、この田圃だけアタシに頂戴ね」

というような、いわゆる放棄の撤回はできないので、ご注意ください。

ですが、

  • 詐欺や脅迫によって放棄をしてしまったとか
  • とんでもない誤解をしていたとか

このような場合は、家庭裁判所が認めれば、放棄の取り消しをすることはできます。

 

そして、被相続人が亡くなってから3ヶ月が経過するとこの手続をすることはできないので、ご注意を。

正確に言うと、「自己のために相続の開始があったことを知った時から」
3ヶ月です。(民法915条1項。)

 

どういうことかというと、

 

  • 離れ小島で生活していて被相続人が死亡したことを数年間も知らなかったとか、
  • 複雑な家族関係のため「自分が亡くなった人の相続人であることを長い間気付かなかった」など。そんなような時は3年たっていようと、30年たっていようと、
    裁判官が認めさえすれば、相続放棄は可能です。
    (万が一、そのような方がおいででしたら、ご相談ください。大丈夫です。)

 

最後に言いたいこと

 

皆、人それぞれとしか言いようのない事情があるものです。

そのような時に、

争うこと、それこそは故人が一番望まないはずだ、と思える方は、

その心に従うことが善だと思います。

 

しかしながら、

 

故人は、私にも財産を遺したかったはず!
とお思いの方は、

手段の全てを尽くして、闘ってみてください。

微力ですが、お手伝いさせて戴きます