遺産分割協議書にハンコをもらう

遺産分割協議書にハンコを貰うためには
具体的にどのようにしたらよいの?

 

どなたかが亡くなって、その遺産を
どのように分けるか相談がまとまったら
或いは、方針が決まったら、
遺産分割協議書を作成することになります

そこには、
各相続人全員の署名と捺印(実印で)
および印鑑証明書が必要です

家庭裁判所で放棄をする場合を除きます

 

相続人全員が顔を合わせて相談ができれば
もちろんベストです。でも場所的あるいは
時間的な理由からそうもいかない場合も
多々あり、そのようなときは
遺産分割協議ができないのか?といったら
そんなことはないので、ご安心ください

 

具体的にはこのようにします

 

協議が済んでいる場合

 

事前に電話でのやりとりか
方針のすり合わせなどが出来ている場合は
わりと簡単です。
遺産分割協議の本文を作成し、
相続する人か誰かが
回覧板のようにそれを回して、順番に
署名捺印することになります

 

または、

同文の遺産分割協議証明書を
人数分つくって、
それぞれが署名捺印するという形に
することもあります。

 

まだ、よく相談ができていない

 

で、

相談がまだ全然なされておらず、かつ、
場所的心理的に距離が遠くて
協議どころではない場合は、一人ずつ
個別に対応することになります

 

弁護士に頼まない場合は、
相続する人(遺産を取得する予定の人)が
赴くことが多いです。

このようなわけで当方で相続したいので
放棄のハンコをお願いできないでしょうか
などと事情説明をしながら
ハンコをもらいに歩きます

遠方であれば電話ののちに書類は郵送ということもあります・遠方でも面談を希望する相続人も中にはいます・いろいろです

 

いくらかお金を包むのか

 

よくハンコ代と言われているように
手数料代わりにいくらか現金を渡すことも
あるらしいです。
印鑑証明書の代金という名目ですが
まさか200円から300円では
すまないだろうと思います。

最初から法定相続分をお金で渡すつもりで
銀行から大枚をおろして準備する人も
います

 

で、
相手側の対応もそれぞれです

こうして用意していった金一封に、
水臭いからやめて、心外です
受け取らない人もいます

 

法定相続分は8分の1のはずだから
どう考えても200万くらいは権利が
あるのでは?それと交換ならもちろん
ハンコを押しましょう
などと
言われることもあります

 

まさに人それぞれで、それぞれに
生きてきた時間が
ここに集約されているのだと実感します

 

他人事なので、軽く書きましたが、
骨肉相食むとはよく言ったもので
ここぞとばかりに積年の恨みが噴出したり
します。

被相続人の元気なうちは
一家眷属仲良しだったのに、
亡くなると同時に手のひらを返すように
態度を豹変させる人もいます
本当に人それぞれ。

 

うまくいくこともあるし、
あと一人というところで躓き、そのまま
何十年も
相続手続きができないこともあります

 

 

遺産分割・ぶんかつ?

 

遺産分割協議は全員が納得同意していれば
どのように分けるのもアリです

つまり、
分割(ぶんかつ)協議という文言から
必ず分けなければならないのではないのか
という勘違いをなさってる方もいますが

具体的には、

お父さんが亡くなったとして、
お母さんが遺産のすべてを相続して
3人の子どもたち全員は何も相続しない
という分け方でも全く問題ありません。

もちろん、全員で法定相続分
お母さん2分の1子どもたちは全員それぞれ6分の1ずつ
でわけてもOKです。

肝心なのは、
全員がそれに同意しているかどうか、
だけです。

 

相続税が発生するような場合は
税金対策も必要になると思います
しかし、
当方は税金のことは門外漢のため
ご説明することができません
税理士におたずね下さい

 

協議書をつくるために

 

お父さんが亡くなって、はや一年。
相続人は、その妻と子供3人。
一周忌も終わったので4人で相談の結果
妻(お母さん)だけが
相続をするということになり、
司法書士に依頼をして、遺産分割協議書を
作成してもらうことになったとします

司法書士は、同じくその依頼に基づいて
相続登記に必要な戸籍を収集しました。
お父さんの生まれたときから死亡までの
戸籍を始めとして、なにはともあれ、
全員の戸籍が必要なのです。

で、その結果、
お父さんには、
なんと
結婚前に認知した子供がいることが
明らかとなりました。

 


婚姻によらず認知された子は、かつては、
(つい数年前まで)
婚姻によって生まれた子の2分の1しか
法定相続分が認められていませんでした
しかし、現在では、
子であれば等しい権利を有するということに
法律が改正されています
参照民法900条4項 旧900条4項

 

 

いずれにしても、
お父さんにはもう一人子どもがいたことが
発覚したため、
遺産分割協議はその人を抜きにしては
成立しません

 

遺産分割協議は全員で

 

その人抜きでやってしまおうと思っても
相続登記の際には被相続人の12歳位
(一応、生殖可能年齢と言われている)
からの戸籍を添付する扱いとなっています

万が一、

その婚外子(結婚しないで出来た子ども)の存在を見過ごして分割協議をしてしまったとしたらその協議は無効です。
遺産分割協議は相続人全員ですることが必要だからです。

 

もらいにくいハンコをもらう

 

さて、実は、このように、
家族に知られていなかった子どもの存在が
明らかになる、ということは、
わりとあることです。

結婚前の恋人との子、
前の結婚でもうけた子、
どういう経緯なのか、
20歳そこそこで養子縁組をした子、等々

その時のご家族の対応は様々ですが、
ここで、早々に結論を申し上げますが

なにより大切なのは
先入観抜きでハンコをもらいにいくことです

 

その新しい子ども
子どもといっても大方の場合すでにいい年の大人ですね
いきなり入り込んできて家族の平和を
破壊しようとしている加害者、
と思い込むのは、
非常にまずい結果につながります。

または、
ウチの財産狙ってるんじゃないの?
のような偏見も持つべきではありません

それは、なにより失礼だし、
そのような先入観はこのあとの
やり取りにおいて、
プラスに働くことは絶対にありません

たとえば、気持ちよく放棄のハンコを
押そうとしているのに、
そんな盗人を見るような目で見られたら
イヤじゃないですか。

人は、わりとそのような雰囲気には
敏感なものです。

 

相続手続きを支障なくすすめるためには、次のことを忘れないように心がけたいものです

想定外の相続人からハンコをもらう

 

・その人は別に意図的に隠れようとしてこれまで隠れていたわけではない

・ましてや財産を乗っ取るために生まれたのではない

・その人は被相続人の血を分けた子である

・にもかかわらず、これまで一切の関わりをもつことなくお互い暮らしてきた人であり

・よってどういう人なのか全く知りようがない

・その人にもその人の過去現在未来の人生があって現在の生活がある

・その人は分割協議手続きに協力すべき義務はないというか協力しない選択もその人の選択でありそれは尊重されるべきものである

・その人がもしも快く協力してくれるとしたら全くの善意からであって何か悪巧みをしたり財産全部を横取りしようとしてるからではない

・さらには今まで子としての庇護を全く受けてなかったとしたらその人からここで恨みを晴らそうとされても文句は言えない

・よって、もしもハンコがもらえたら、
それは大変に奇跡的に有り難いことなのだ

ということを忘れないでほしいと
強く思うものです

 

えー?そこまでするの?とお思いのあなた

 

そう思えなければ、ハンコはたぶん、
もらえません。

 

何と言っても、亡くなったのは、
その人の父親だったわけです

で、へたをすると、
何十年も知らなかった実の父親の存在と
同時にその死亡を知らされたわけです

何か、これに反論できることがありますか。

 

実際にハンコをもらうために

 

一番簡単なのは、
弁護士に丸投げしてしまうことです

弁護士が直接相手方に説明して交渉して
遺産分割協議書にハンコと
印鑑証明書をつけてもらってきてくれます
(うまくいった場合です もちろん)

費用がかかるのと、
ちょっとこれでは寂しいかも、
人としてこれはどうなのかなどと
思うかもですが、
世の中にはいろいろな人がいるので
余裕があるなら、
交渉の専門家である弁護士に丸投げするのが
一番楽だと思います。

それだと他人行儀すぎて気が済まない
のであれば、全てが完了したあとで、
お礼の手紙を書いてみる、など。
感謝の気持ちを表す方法は
一つではありません

 

 

そんな費用は出せないとなったら、
全部ご自身でやることになります

なお、司法書士は依頼人に代わって交渉することはできません
書類を作成することはできるので指示に従って書類を送付することは可能です

 

自分でハンコをもらいに行く

 

いきなり、訪ねていくのは
相手方にも失礼ですし、
心の準備もない状態の人に
突然ショッキングな話をする、
というのは作戦的にお勧めできません

まず、
状況を淡々と冷静な筆致で書き、
お手紙するのが良いかと思います

文末の方に
一度お目にかかって相談したいのでついてはご都合を聞かせて欲しい
と書き、連絡先を明記します

 

これをすると何らかの反応が返ってきます

 

1 電話がかかってきて会うことになる

2 話がよくわからないので司法書士等からの説明が欲しいと言われる

3 電話があってその場で快く遺産を放棄してもらえることになる

4 なかなか連絡ないがある日相続放棄申述受理証明書が送られてくる

5 いきなり弁護士から電話がかかってきて弁護士との話し合いになる

 

4、は一番手間がかからずある意味うれしい対応です

1、2、3は、話がまとまったら、
相続分の放棄の書類(遺産分割協議書)の
実務レベルでのやりとりとなります

実際に足を運んでやりとりするよりも、
ほとんど郵送で済ませることが多い印象です
大体遠方に離れて住んでいるからだと
思いますが。

5、の弁護士登場は微妙です

放棄してもらえることもあるし、
法定相続分等を要求されることもあります

まず、
相続財産の全容が知りたいということで
財産の開示を要求されたりします
不動産だけではなく預金の残高も求められる
財産が自宅と小額の預金だけ、
ということだと、
そのまま裁判所で放棄してもらえたり
分割協議書に快く捺印してくれることも
あります。

印象としては、
故人に多額の遺産があった場合は、
法定相続分を要求してくるケースが多い
ような気がします

 

相続分を放棄するということの意味?

 

ここで、「放棄してもらう」というのは
遺産分割協議において、
何ら遺産を取得しない、という
意味で使っています。

 

分割協議の結果、何も取得しない。
すなわち、
相続分の放棄ということです。

これは、
家庭裁判所での相続放棄申述とは
異なりますのご注意ください

 

相続分の放棄の方は、債務があれば、
それを相続してしまうことになります
プラス財産を相続してもしなくても、
自動的にすべての債務は
相続人が共同して負うことになります

もし

協議の内容が気に入らないから
ハンコは押さない
ということであっても
債務は法定相続分で承継されます

つまり、
債務の承継(相続)については、
分割協議書に捺印してもしなくても結果は
同じです。

 


民法896条
相続人は、相続開始のときから、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

民法898条
相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属する

第899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。


 

なお、分割協議において、
もしも被相続人に債務が発見された場合は妻A子がすべてを相続しその責任において処理するものとし他の相続人に一切迷惑をかけないものとする
この約束は有効です。

ただし、相続人間において。

 

債権者に対しては、
その協議の内容を主張することはできません

 

家庭裁判所での相続放棄

 

これは、
相続人としての権利も義務も放棄する
という意味合いです
プラス財産もマイナス財産も一切何にも
相続しないということです


民法第939条(相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす

相続の放棄は何人に対してもその効力を生ずるという判例があります。


 

前述した4、の人は
裁判所での相続放棄を選択した人です

この場合、
被相続人は1年前に死亡していたため
3ヶ月の熟慮期間を経過してしまっているので相続放棄はもう出来ないと諦めてしまう人がいるかもしれません。

ですが、そんなことはありません。
自分が相続人であることを
知った日を基準としての3ヶ月なので
有効に相続放棄ができます。

 


民法915条
(相続の承認または放棄をすべき期間)
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に、相続について、単純もしくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる


 

「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」とは相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知りかつそのために自己が相続人となったことを覚知した時をさすとされています。

本件の場合は、
相続人から手紙が届いた日
ということになるので、それから3ヶ月が
熟慮期間となります。
また、この期間は、事情があれば、
伸ばしてもらえることもあるので、
最初から諦めてしまわずに家庭裁判所に
ご相談なさることをおすすめします

 

被相続人の最期の住所地を管轄する家庭裁判所が取り扱い裁判所なのでそこに相談するのがいいと思います。
窓口まで行けない場合は、電話でも相談にのってもらえることもあります

 

どうしても全員のハンコが揃わない時

 

機が熟すまで何十年も待つのもありです

その間にどなたかが亡くなり、
相続人の数はおそらく増えていくでしょうが
その分、恨みやしがらみは薄くなります。
特に、
絶対ハンコは押さないと激しく主張する人は
そんなに何人もいないでしょうから、
その方が亡くなるのを待つ、というと身もふたもないですが
要するに新しい世代に期待する、のも
戦法としてアリだとは思います

しかし。

そんなに悠長なことを言ってはいられない
というのであれば、
調停を申し立てたらどうでしょうか。

裁判所での手続きなので、
ええっ裁判?と腰が引ける方も
おいででしょうがそんなことはありません

考えているよりもはるかに
カジュアルで優しい手続きです

調停を申し立ててみる

 

家庭裁判所に、
ハンコを押してくれない人を相手方として
調停の申立をします

相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
申し立てるので、相手方が何人かいたら、
一番行きやすい場所の家裁に
申し立てることが可能です

その調停がうまく成立しなかったとしても、
審判を受けられることもあるので、
特にこのような遺産分割に関しては
調停は有効な手段だと思います

何十年にも渡る相続問題が、
なんと、わずか2,3回の期日で
解決することもあります

(解決しないこともあります)

調停は、一般人が専門家の力を借りずに
法的決着を得るためにできる手続きです

中には、代理人として
弁護士を立てる人もいますが
基本的には代理人なしで充分やれる
簡易な手続きです

 

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まとめとして

 

あまりいろいろ難しく考えないで、
素直にハンコを貰いに行ったほうが
成功率は高い感じです。
あくまで司法書士側から見た印象ですが。

 

 

渡る世間に鬼はなし

それとも

人を見たら泥棒と思え

 

こうしたときこそ、
ご先祖の加護!
と思います

あしたはお彼岸の中日ですね。