遺言は必ず守るべきものなの?

遺言が最優先なのか

 

遺言がのこされて、その遺言が相続人の全員の意向とまるで異なっていた場合。

さて、どうしようか、という悩ましい問題です

 

実は、遺言は、状況にもよりますが、
必ずしもそのまま執行しなければならない
というわけではありません。

たしかに、公正証書で遺言がされていて、
遺言執行人が指定されていて、
遺言内容のほとんどが第三者への遺贈だという場合などは、あまり、自由裁量というか考える余地はありません。

でも、そうでもない遺言もあります。
このまま見なかったふりをしても大丈夫なのではないか。。。

というような遺言。
そのような遺言を発見すると、相続人は
悩みます。

 

質問:遺言を無視してもよいのか

 

故人の遺志を尊重して、遺言をそのまま
実現させるべきなのか、それとも、
相続人全員の相談さえまとまったら、
故人の遺志をさておいて独自路線を走ってしまってもよいものか。
知らないふりをしてみんなで山分け!とか
仮にそれが可能だとしてもそれは人としていかがなものなのか。

 

お答え

 

大丈夫なときと

絶対アウトなときがあります

 

遺言の種類(誰が書くのか)

 

遺言はざっくり分けると、

・自筆遺言
・公正証書遺言があり
この中間的な位置づけとして
・法務局保管の自筆遺言があります

 

遺言内容も大きく分けると、

★相続人への相続方法を指示しているもの

妻へすべてを遺すとか3女の梨子にすべてを遺すなど

★相続人以外への遺贈を指示しているもの

どこの誰それにすべてを遺贈するとか、母校へ、または〇〇財団にすべてを寄付するなど

★以上が混在しているもの

 

法定相続人への相続分等の指定

 

公正証書遺言で作成

 

公正証書遺言であっても、権利を受ける人が相続人だけであれば、けっこう融通が効きます(法務局保管の自筆遺言も同じ)

ご注意:
法定相続人全員の同意があることが
大前提です

 たとえば、

被相続人が夫であるとして、その遺言書に
妻と子どもたちで全員等分に分けるべし
という遺言があった場合。

でも、全員で話し合った結果、
お母さんだけが相続したほうがいいよね
という相談がまとまれば、
これはこれでOKです。

遺言をいわば無視するかたちにはなりますが
法定相続人全員で、妻のみを相続人とする遺産分割協議をすることは全然、問題ありません。

 

自筆遺言で作成

自筆遺言で同様のタイプの遺言(相続人への相続分の指定)がなされたときも事情は一緒です。

全員で協議がまとまれば、別途
遺産分割協議をするのは、問題ありません。

また、
自筆遺言の場合は、
まず、
家庭裁判所で検認手続を経る必要が
あります。これをしないと、
どんなに一見、立派な遺言書があったとしても、何もできないわけです。

ですが、検認手続は、
裁判所に申し立てをして期日の指定をうけ
期日に出席して、と
何も問題がなかったとしても
1~3ヶ月くらいかかるものなので、

この手間を回避するために、
遺産分割協議をするのも有効です。

揃えるべき書類は検認手続とほとんど同一ですが、遺産分割協議書を作成すれば(各自の印鑑証明書つき)すぐに登記可能となります

 

なので、すぐに登記をしたいという場合は、
あえて、
遺言の存在を無視して遺産分割協議をする
というのも戦略としてアリです

 

亡くなった人はそれなりの思いがあって、
そのような遺言を残したわけですが、
究極的にほとんどの場合は、
望みは、
あとに残された家族の幸せだけだと思います

その家族が全員で
故人の遺志とは異なる結論を出したとしても
それはそれで、
故人の思いを傷つけるものではないのでは?と思います

 

直接、分割協議の登記が可能?

このときも、ダイレクトに、
妻のみの名義にすることができます

以前お尋ねがありましたが、
まずは遺言のとおりに全員共有名義にしてから、そののちに遺産分割を原因として妻のみにするべきなのではないか
というものです。

しかし、
その必要は全くありません。
そのような迂遠な方法は不要です。

 

第三者への遺贈など

 

遺留分を考慮しない遺言

ⅰ たとえば推定相続人が兄弟だけのとき

遺産の全ては恋人A子に贈与するというような内容の遺言が発見された場合。
法定相続人が兄弟だけ、のときは
遺留分がないので、
被相続人は自分の財産すべてを好きなように恋人へ遺すのも、どこかの団体に寄付するのも自由にすることが可能です

 

ⅱ 法定相続人が妻や子の場合は
遺留分が2分の1

どのような大胆な遺言をするのも自由では
ありますが、全財産の2分の1については
遺留分を侵害しているとして
遺留分侵害額の請求をされる可能性
あります

これはつまり、逆の言い方をすれば
その人達が請求しない限りは
遺言内容はそのまま実現されることになります


民法1046条
(遺留分侵害額の請求)
遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対し遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる

民法1048条
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺贈分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始のときから10年を経過したときも、同様とする。


で、ここからですが。

公正証書の場合

被相続人A男が、「全財産を恋人B子に遺贈する」という遺言を公正証書で作成していたらつまり、その恋人B子もその遺言の存在を知っている可能性ありということですが、その場合は、これを完全に無視して自分たちだけで分けてしまおう!っというのは、露見したら恥ずかしいどころの騒ぎではありません。

犯罪です。

恋人B子が泣き寝入りをしてくれるか、または全くそのような遺言の存在を知らなかった場合、は相続人だけで好きに分けることが全く不可能とは言いませんが、その遺言公正証書の存在を知りながら、敢えて、バレなければいい、という行為はかなり問題があります

やめましょう。

 

自筆遺言だった場合

で、その遺言書が自筆遺言だった場合はどうなるのでしょうか

見なかったことにして、自分たちだけで山分け、もアリなのでしょうか。

 

公正証書遺言であっても、
自筆遺言であればなおさらのこと、
受贈者である恋人B子が所持していることがほとんどです。

 

理由は、明白で、
こうした遺言は受益者が主張しない限りおそらく闇から闇へと葬られてしまうことになるからです

ですが、亡くなった人の最後の枕の下に、
そのような大胆な内容の自筆遺言を発見した場合でも、闇から闇へと葬って良いということではありません。
もちろん。

それは、犯罪です

もしもそのようなものを発見したら、
どんなに納得できないものだったとしても
しかるべき措置をとるべきだと思います

 

民法の規定はこうです。

 

民法891条
(相続人の欠格事由)
次に掲げるものは、相続人となることができない。
5号 相続に関する被相続人の遺言書を
偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者

 

捨てたり、隠したり、そのようなことをした人は、相続人となることができない、つまり何ももらえません。

 

まとめ

何にしてもあまり欲張るのはよくないです
そもそもそれは被相続人の財産なので。

 

遺留分のある人はせめてそれをもって故人に感謝しましょう。

遺留分のない人は、そういう運命だったのだと、そもそも遺留分もないくらいの関係性なので、仕方がないと諦めましょう。そして、かわりに、現在(いま)を元気で生きていられることに感謝してみるのはどうですか

 

自筆遺言の作成についてのご相談は
どうぞお気軽に。

ただし、

相続税対策のご相談は税理士まで。
当方ではできません。