契約書、ないと無効?

契約書はないと無効?それでも有効?

 

結論は

契約書がなくても
当時者の合意だけで
有効に成立する契約が多いです

合意というのは、つまり

くち約束だけで
売買契約(○○円で売る買う)
贈与契約(ただであげる貰う)
金銭消費貸借契約
(○○円を貸す借りる)等が

成立するということです

 

 

ですが一方では
書面でしないと有効にはならない契約も
あります

また、それをさらに
公正証書で作成しないと効力を発揮しない
という契約もあります

 

さて

売買や、贈与のように
くち約束だけで成立する契約だとしても

契約書を作らなくてよいのか、といったら

やはり 後日のことを考えて
作成しておくことをお勧めします

 

契約書作った方がよい理由

 

契約が有効であるということと
作らなくてもよいかということはまた
別の問題です

 

確かに
口頭で契約は成立するのだとしても、です

作っておいた方がよいです
後日のために。

 

どんなに後日問題の起こりようがなさそうな
契約であったとしても

むしろ、そのように
問題の起こりそうもない契約だからこそ
作っておいた方とも言えます

 

人生何があるかわかりません
(というのは、私の定番フレーズですが実際本当に毎日のように痛感します。本当にそうなのです)

 

また、契約したことの証拠が残らないので
あとで、当事者に否定されたら
相手側は苦しいことになります

貸しただけで、売った憶えはない
とか

借りる話をしてあるけど
買うなんて一言も言ってない
とか

ただみたいなもので価値がないから
お金はいらないと言った
vs
そんなことは言ってない、もののたとえで
言っただけ

そのまま使ってていいとは言ったが
譲渡するとは言ってない
vs
言った

等々

 

 

不動産の売買

 

たとえば不動産(土地・家)の売買で
八方円満に滞りなく取引が進み

シャンシャンシャンで、成立!

お金の授受!引渡し完了!

「本日は、おめでとうございます」で、
終わったものの(多くの場合、これで終了です)

 

数か月経過の後に

稀にですが

「あれは売ったことになってるけど
どうゆうことなのか」

と司法書士が詰問される、という事態が
生じることがあります

 

契約書があれば
そのようなことは起こりにくいし
(絶対ないとは限りませんが)
通常、少なくとも仲介業者が入っていれば
契約書がないということは考えられないです

ですが、当事者間の直接売買だと

「面倒だし、作らなくていいよね。」
「そうそうそんな水臭いことはしないよ」
というようなことだったのだと思います

 

「あれはいったいどういうこと?」

と時間がたってから、私に聞かれても
困ります

 

最悪なのが、なんと

売った憶えがない。。。

「知らない間に自分の土地の名義が
変えられてしまったと本人が言っている」
というものです(息子からのクレーム)

 

せめて、取引時の動画でもとってあれば
証拠としていけると思いますが

それがないのであれば
契約書がないというのは、後日
関係者の間で、非常に心証が悪いです

 

事情はだいたい当事者が忘れているだけ
なので、そのあたりをご説明すると
思い出してもらえることが多いです

 

認知症ではなくても
とかく中高年ともなると
大事なことを端から忘れていくものです

特に
売買価格が低廉なものだったりすると
買ったことも
売ったことも忘れてしまいます。

売買意思の確認をした時には、あれほどに
記憶力も鮮やかで
判断力も正常だと思われたのに

なんと、その部分だけの記憶が
バッサリ抜け落ちているという、、、、

 

「でも、あの時こうだったですよね。
そしたら相手の人がこのように言って
それでお二人はあのような判断に
至ったのでしたよね
それに
お金払う時にああでしたよね
こうでしたよね」 
というように事細かに
説明すると思いだしてもらえます

「ああ、そういえば確かにそうだった」
というように。

 

またこのようにも当時の事情を
ご説明することがあります

「契約書の作成をお勧めしましたが
当事者のお二人が却下なさったのです」

「ほとんどの方は説明すれば契約書作成に
同意してもらえるのですが
どう考えても不要だ、とお二人して
固辞なさったのですよ」

または

「作成済ということなので、そのコピーを
お願いしたとき、あとでファクスします
とのことだったのです
それっきり、おそらくお忘れになったので
しょうが、こちらも何度も催促するのは
気が引けるので
そのままになってしまったようです」

 

というようなことはままあります

 

 

高齢者の方の直接売買は
このような破目に陥ることがままあります

怖いと言えば怖いですが
売主または買主または双方に
近い将来認知機能に問題が生じる
懸念があるから
引き受けられない、とは言えません

現代においては
道を歩けば高齢者。
かく言う私も高齢者。

高齢者の取引を、現在ではなく将来の
認知能力の不安を理由に断っていたら
司法書士の仕事はなくなってしまいます

 

仲介業者がいないというのは
このような面からも不安ですが
(証人という意味でも)

売買代金が数万とか数十万というような
低廉価格での取引の時に

仲介費用の負担を考えると
自分たちだけで取引しようと考えるのも
無理はないかもしれません

だからこそ、せめて売買契約書は
作っておいて欲しいと思うものです

 

 

契約書のコピーは司法書士が?

 

「あのときの契約書を紛失してしまったが
このほど申告で使うのでコピーが欲しい」
と言ってくる方もおいでです

もちろん、取引記録は保管してあるので
当方にあるのであれば
当事者の方にお渡しするにやぶさかでは
ありません

が、作ってないときは
どうすることもできません

よって回答は次のいずれかになります。

 

A コピーはいただいていません。
契約書自体、あとで見せるという話で
未だ見せてもらっていません

B 契約書は作るに及ばない、ということで
当方では作ってないです

 

非常に不本意ですが、上記いずれかの
回答をすることになります

実際に手元に無いわけですから。

 

そのような方は

「友達から、契約書は登記をした司法書士が
持ってるからそこで頼めばコピーをもらえる
とアドバイスされたので来ました。
一部もらえますか」

と言って事務所まで
お越しくださるのですが

それは当事者が契約書を作成し、かつ
当方でそのコピーを頂戴している場合に
限ります

 

契約書は当事者が合意の上、署名捺印して
そこで初めて完成するものです

契約書を司法書士が勝手に
作成することはありません

 

契約書に何を載せるのか

 

ざっくりとした契約書(案)を
当事者のご要望に従って
作成することはありますが

宅建業者ではないので
残念ながら

パーフェクトな至れり尽くせりの条項は
お作りできません

そのような契約書は
宅建業を生業とする仲介業者さんに
お任せしたいものです

 

絶対に記載すべきこと

 

  • 誰が
  • 誰に
  • いつ
  • 何を
  • いくらで
  • どうした(売った・貸した等)

以上です

 

なくても有効だが、あった方がよいこと

 

  • 固定資産税の清算はしない
  • 測量はしないので、登記簿面積で売買し
    後日、買主も売主も異議を申し立てない
  • 契約の解除について
  • その際の損害賠償
  • 契約不適合時の賠償方法
  • 裁判の管轄

これらも記載しておくとよいです

 

またこれらを書かなくても契約自体は
有効ですが

契約書に書かれていない事柄が
問題になったときはどうにもなりません

たとえきちんと約束したとしても
相手側が、そんな憶えはないといったら
そこで終わりです

約束したのなら、契約書に
遺しておくべきでした

 

くち約束だと詳細が詰められていないことが
ほとんどなので

たとえば

  • いつ支払いをするのかとか
  • 引き渡しはいつなのか
  • 譲渡に伴って何か精算しなければならない
    金銭があるならそれをどうするのか
  • 建物の売買だとしたら
    中に遺されている家具や古い家電製品などの
    処分についてなどです

あとは

クルマだとしたら
売買し引渡し後まもなく壊れて
動かなくなった場合、責任の所在は
どうするのか、といったようなことです

これらは、ぜひ、
載せましょう

当事者間で、約束をしていれば、その約束が
優先されるのですが
あまりに簡単な契約書だとこれらは
書かれていないことが多いです

その場合は
法律の定めに従うことになります

 

法律の定めがないときは
協議して決めることになりますが

協議が整わなければ
次の段階に進まざるを得ません

調停とか審判とか裁判とか

 

 

なお、原則として法律に反しない限り
当事者間で約束したことはどんなことでも
契約書に遺しておくことはできます

 

契約書に載せても無駄なこと

 

どんなことでも、といっても
公序良俗違反とみなされるようなことは
当事者間で固く約束したとしても
無効です

 

たとえば
このお金を期日までに返せなければ
一生ただ働き(!)します

とか

借りた10万円を返せなければ
実家の高級マンションを渡しますなど。

契約書に載せておきさえすれば全てが
有効というわけではありません

 

(公序良俗)
民法第90条
公の秩序または善良の風俗に反する
法律行為は、無効とする

 

契約書の代わりは?

 

せめて領収書を書く

 

契約書をどうしても作りたくないなら
せめて
領収書を作っておきましょう

後日、売買の有無が問題になったときでも
領収書があれば

少なくともその事実だけは
確認することができます

 

が、宛先も不完全(上様とか)で
書かれているのは
受領者名と金額だけ、というような
領収書だと

何のお金なのか

いつ、誰にあてたものなのか

まるでわかりません

 

反対に、領収書を細かく書けば
ある程度簡単な契約書の代わりになります

 


領  収  書

相手先(できれば住所も)○○様

但し、 ○○県○○市〇町123番の
土地建物の売買代金全額として

受領者 住所
氏名○○  印 
(印はなくても可)

金額  金○○円

日付 (プロでも忘れがちなので必ず)
2024年3月12日


 

領収書は省略します

 

銀行振込なので
領収書は作ってません、いりません
という方もおいでですが

振込控または通帳の記載に
金額と当事者の記載はあっても

何のお金なのかは判然としません

それなりに高額であれば、おそらく
不動産等の代金なのではないかと思っても

それが代金の全部なのか、一部なのか
わかりません

ですが、まあ、なんとなく
そのあたりの雰囲気から
売買があったのであろうという推測だけは
できるかと思います

 

 

というように
契約書を作らないことのデメリットは
数々あります

がしかし、作ってあればそれでよい
というものでもありません

契約書を検討する

 

契約書がなければそれで済んだものを
細かいことをズラズラと書き連ねた
長大な契約書に署名したがゆえに

想定外な、非常識な義務を負わされた
容易に解除できない契約だった

などが
デメリットの典型です

 

A4一枚の契約用紙であれば、通常は
せいぜい10条くらいのもので

全文を読み通すこともさほど
苦ではないかと思いますが

これがA3用紙で4枚、しかも字が細かい
などとなると

きちんと読む人は、決して多くはないと
思われます

それを当て込んで、わざと
どうでもよいことをびっしりと書いて

発見されると危ない条項
(削除要請されそうな微妙な文言)
目につかないようにしたりしている
悪質なものがあります

自分で用意した契約書であれば
何が書かれているのか把握してるとは
思いますが

他人(特に、よく知らない他所の人)が
作成した契約書は
疑ってかかった方がよいです

 

いきなり契約の場でそれを提示されて
署名を求められることが
あるかもしれませんが

そこで署名するのは危険です。

 

そうした複雑な契約
(複雑なのは条項だけであっても)の場合

通常は
事前に草案(ドラフト)を見せられていて
検討する時間が与えられているものです。

そうしないと、
納得しない契約を締結させられたと
後日問題になる可能性があるからでもあるし

ビジネス常識のある者であれば
あとで訴訟になれば絶対勝てる、などという
観点からではなくて

常識あるふるまいを心がけて
息の長い商売をしたいと願うものであるから
です。
わざわざ争いのタネをまくようなことは
しないです。

 

もしも
自分では容易に読み解けないような
難解な契約書に
即時の署名を求められたら
「日を改めて契約締結したい」
言いましょう。

ご自分でゆっくり熟読したり
知り合いに相談したりするわけです

契約書を
精査検討リーガルチェックしてくれる機関
(法律事務所など)もあるので
そこに依頼するのもアリです
(それはそれで、けっこうな費用がかかります)

 

ですが、個人間の売買で

時間がほしい、という至極まっとうな依頼が
却下されるのであれば

それは種々の事情があるでしょうが
縁がなかったということで
諦めた方がよいと思います

「契約内容を理解している自信がないので
今回はご縁がなかったということで
またの機会を待ちます」

と断るのがよいかと思います

 

もちろん、すべての長文の契約書が
怪しいわけではないです

どんなに精査しても問題のない契約書が
ほとんどだと思いますが

悪質なものや微妙なものが存在するのも
また事実です

 

ご検討をお祈りします