自筆遺言の落とし穴!

自筆遺言の落とし穴!

怖すぎる、改正民法899条の2

さて、

自筆で遺言を作成することによるメリット
いろいろありますが、

 

自筆遺言のメリット

 

  • 思い立ったときに簡単に作れる
  • 公証役場に行かずに作れる
  • 費用がほとんどかからない
  • 遺言内容を人に知られずにすむ
  • いつでも気軽に撤回・変更できるなど。

 

しかし、
このほど、
2019年(令和元年)7月1日から
民法が改正されたことによって
思わぬ落とし穴が生じることになりました

 

これを見落としていると
せっかく遺言で実現しようとした
最期の意思が
叶えられないことになってしまうので
ご注意ください

 

 自筆遺言の落とし穴とは

 

わかりやすく言うと

被相続人の死後、一刻も早く
登記や登録により対抗要件を備えること。
そうしないと、
もしも相続人以外の第三者に
先に登記をされてしまったら、
権利を主張できなくなる

ということになります。

 


民法899条の2(新設)

共同相続における権利の承継の対抗要件

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分法定相続分のことを超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない


 

つまり、
自筆遺言だから危ないというわけでは
ありません。
登記などの対抗要件を備えないと
第三者に権利を主張できない、という
ことなのです。

ですが、
自筆遺言には、
自筆遺言ならではの
特有の問題があります。

それは、
自筆遺言書があっても、すぐには
不動産の名義を変えることはできない
というデメリットです。

公正証書遺言があれば、そのまま名義変更は可能です。
(言うまでもなく、他にも必要な書類はあります)

 

自筆遺言書を発見したら

自筆遺言を発見した、または
生前から託されていたとき、
被相続人が死亡したらまずやるべきことは
遺言書の検認(けんにん)手続きです

 

公正証書遺言や法務局で保管する遺言
2020年7月10日から施行 には
検認手続が不要なことを考えると
自筆遺言はこの点、かなり不利です。

 

・このように検認手続は進みます

  1. 家庭裁判所に必要書類を添えて
    遺言書検認を申し立てる
  2. 検認期日の連絡がくる(相続人全員に)
  3. 期日に出頭して遺言書を提出
  4. 検認証明書を遺言書に合綴してもらう

以上です

それから司法書士に依頼するなり、
本人申請ならばそのまま登記を申請する
という流れです。

 

・登記は間違いなくできるのか

なお、
遺言の検認手続を終えたからといって
登記が可能かどうかとは別問題です。

裁判所は、
遺言の内容を
調査したり確認したりするわけでは
ありません。

その日(検認の日)に
それ(遺言書)が存在した、
ということを認める、というだけの
手続きです。

そのため、
無事に検認が済んでも
遺言としての要件を満たしていないなど
ということがあれば、
それをもとにした登記はできません

 

落とし穴 具体的にはこんな感じ

 

ご主人甲之助が
・妻D子に自宅を遺して死亡
(自筆遺言書あり)
・子供1人E太郎あり

子供E太郎は数十年前から家に寄り付かない

 

妻D子はすべての財産を妻D子に遺すという遺言書を託されていたので夫の死後も全ては自分のものだと安心して何も行動を起こすことなく数ヶ月が経過。不動産の名義も変えてないし預貯金名義もそのままです つまりまだ何も手を付けてはいません

 

この場合の法定相続分は、

妻D子  2分の1
子E太郎 2分の1です

 

子E太郎は
父親死亡の連絡をしようにも
居場所も電話も不明のため
結局葬儀にも列席しないどころか
おそらく、未だに父親の死亡を
知らない可能性が高い状態にあります

 

ここで、F興産が登場します

F興産は子E太郎に対する多額の貸付金を
回収するため、
甲之助名義の不動産を発見しました。

そしてF興産は、
この不動産を、甲之助名義から、
法定相続による所有権移転として
妻D子・子E太郎 持分2分の1ずつ
という登記をしました

 

これは、不法なことではありません。
債権者の権利として認められています
しかも、
D子はもちろんのことE太郎の協力等
一切必要なくできてしまう登記です。

 

そして、債権者F興産は、
E太郎の共有持分に対して差押さえの登記
をしました。

妻D子にとっては、
自分のものだと疑いもしなかった自宅が
E太郎との共有名義にされてしまった上に
そればかりでなく、まさに寝耳に水である
債権会社の差押登記までされてしまうわけです。

このあとは、競売にかけられ
さらに第三者の名義になる可能性はあります。
ただし、共有名義なので、共有持分を競売にしても
手を出す人はいないだろうと思いたいですが、
漏れ聞くところによれば共有持分専門に
そのようなことをしてる業者もいるらしいので、
油断はできません。

 

 

法律(民法899条の2)の字義どおり、
債権者F興産は第三者であり、
差押の登記がされてしまったら、
妻D子は子E太郎の共有持分については
もう対抗することができません。

 

本来の法定持分2分の1については、
D子のものです

ですが、

法定持分を超える持分については、
残りの2分の1・E太郎持分として登記された持分
登記(対抗要件)の
早いもの勝ち(つまりF興産)
ということになってしまうのです

 

○ ところで、共有持分とは何なのか

 

物理的に半分にすることのできない建物等
であっても、
共有持分として数人で所有することは
可能です。

持分3分の1ずつで3人が所有するとか。

この部屋はA、ここはB、そしてあとは
Cが所有する、という登記はできないので
当事者間での取り決めは有効だとしても
ABCの3人が全ての部屋について、
等しく3分の1ずつ権利を
有するということです。

 

この共有持分は相続することもできるし
売買することも可能です

建物を現実に分割することはできなくても
共有持分権として権利を移転させるわけです

登記も可能で、
他の共有者の承諾等は、一切不要です。

Aは自分の持分をB・Cに一言の断りもなく
他の第三者に売り渡すことができます。
登記は「A持分全部移転」として
記録されます

なので、
この持分に抵当権をつけることも、
差押をすることも、可能です。

 

・勝手にできる法定持分の登記

 

もともと改正前から子の委任状だけで
妻と子との、
法定相続分による共有登記は可能でした
妻2分の1、子2分の1

妻の知らない間に、
法定相続持分による登記ができてしまう、ということ

さらに子に悪意があれば、
自分の持分を第三者に売ったり
それを担保にお金を借りたりすることも
可能でした。

しかし、

改正前は、遺言があれば、
遺言が優先して適用される結果
いずれの登記も
妻に対抗することはできなかったのです
登記されてしまっても、妻の権利が優先する

 

しかし、2019年7月から、
第三者との優劣は、
対抗要件を早く備えたほうが勝ち、
というように法律が 改正されました

 

 

○ 検認まで何日かかるの?

 

自筆遺言は、被相続人の死後、
家庭裁判所の検認を受けてからでないと
登記等ができません。

この検認までの時間がけっこうかかるのが
何と言っても最大のデメリットです

 

 

1 まず、戸籍等を取り寄せる(これも相続人が多数だとしかも遠方に本籍地があるなどすると軽く1,2ヶ月かかってしまう)

2 家庭裁判所の窓口に提出する

3 検認期日の連絡が来る

早いところでも1ヶ月くらい先の
日付になります
たとえばいきなりそれを知らされた相続人に対して
1週間先、とかいうのは、酷であるため。

 

あくまで、
他の相続人が対立関係にある場合ですが
検認期日をまっている間に
法定持分で相続登記をされてしまうという
危険性がないとは言えません

ですが、

ほとんどの場合は、
わざわざ妨害工作をしたりという事態にはいたらないものです。
たぶん。

そうは言っても

私の所にそのような重量級の争い事が
持ち込まれないのは、
当方が弁護士ではなく、
司法書士だからかも、です。

本当はもっと相続人間での対立は
想像してるよりも多いのかもしれません

 

近年、家族意識がドライになってきているので、そのような事態に陥ることも当然視野に入れておく必要があるのでしょう

たぶん大丈夫とは思っていても、もしも多少でも不安材料があるのであれば然るべき予防措置が必要になるのかもしれません

 

当方でも検認申立まで数ヶ月かかったことが
あります 相続人が20人以上いて全員、遠方に
住んでいたため、戸籍の取得に時間がかかった
幸いなことに、その間に勝手に
法定相続をされるということは
ありませんでした。

ただ、常に危険性は理解しておく必要が
あります。

もしも敵対的相続人(!)がいるのであれば
細心の注意をはらうべきです。

それが改正民法899条の2が、教えてくれることです。

 

 

○ そろえるべき戸籍とは?

 

検認期日は、裁判所が、
相続人の全員を呼び出します
1ヶ月以上前に呼出状が郵送されます

なので、提出書類としては、
相続人全員の戸籍と住民票が必要とされます

ですが相続人全員といっても様々。。。

 

ケースA

被相続人夫。妻と未婚の子あり

相続権あるのは、妻と子だけ。
であれば、簡単です

本籍地が遠方でなければ、
大した手間ではありません。

 

しかし、たとえば、

ケースB

被相続人夫。妻あり。子なし。

相続権あるのは、妻と夫の兄弟4人
そのうち2人は死亡しており、それぞれ子供がいる
であったとき。

こうなるとけっこうたいへんです

全員の戸籍を取り寄せるのに、
妻一人では不可能です。
夫の兄弟の戸籍は妻からの請求では
取得できないためです。

本人に依頼して取得してもらうか
司法書士に依頼するかしかありません

いずれにしても時間はかかります

 

では、どうしたらよいのでしょう?

 

万全を期すためにできることは?

 

もしも相続人の中の誰かが法定相続をして
第三者に所有権を移転してしまいそう
という危機感をお持ちの方には
次の手をお勧めします

 

 自筆遺言書は諦めて、公正証書遺言を作成する(遺言検認不要)

 2020年7月10日から施行される遺言書保管制度を使う(遺言検認不要)

3 上記1,2の場合。さらに一刻を争うならば、死亡届けを出したらすぐに司法書士に一切を依頼する
戸籍が揃ってからでは準備に時間がかかって間に合わなくなる可能性があります

 

なお、司法書士に依頼すれば、
すぐに魔法のように名義変更が完了する
とお思いの方は多いですが。
そう思っていただけるのは嬉しいですありがとうございます

しかし司法書士が魔法を使っているわけではなく地道な書類収集等を日々行っているのです
派手なパフォーマンスは無いですが着実に準備行動をしています
外側から見えるのは、依頼のときと登記が完了して成果物(権利証・登記識別情報・登記簿謄本)を授受するときだけなので努力のあとはわからないと思いますが

というわけで、迅速な登記のためには、
司法書士側での事前の準備が不可欠です

特に、

物件が遠方だったり物件が多かったり登記準備に時間がかかる登記がされたときの被相続人の住所と最期の住所がつながらない同一人という証明が別途必要になるなどなど簡単な相続登記だと思っているととんでもなく複雑というか面倒なこともあるのでこれだけで1~2週間は軽くかかってしまいます

 

悪いことをしようとする人は事前の準備を丁寧にしてることが多いです
それに対抗するためには同じように事前準備はかかせません

 

 一番確実なのは、生きている間に登記名義を変えてしまうこと
生前贈与、近ごろは流行りです。

税金のことは税理士に相談してほしいですが相続時精算課税制度や配偶者控除等によって場合によっては贈与税がかなり軽減されます

 

 贈与税がいかにも高額すぎる、または生きている間は自分の名義のままにしておきたいという方には死因贈与による仮登記(始期付死因贈与仮登記)をする

 

死因贈与契約書をきちんとつくって、
そこに、執行者として妻の名前を。
そしてその契約書に遺贈者の実印を押します
(印鑑証明書も添付)

公正証書で作成するのがお勧めです。
(後日の争いを防ぐため)

で、これに基づく始期付死因遺贈の仮登記をしておきます

 

なお、仮登記はあくまで、仮登記なので、
所有者は変わりません。さらに、
10年たったら法務局の職権で本登記に
してもらえるというようなものでも
ありません。どこまでいっても
仮登記のままです

 

なので、

然るべきタイミングで、
仮登記を本登記にする手続き(登記申請)
が必要になります

 

しかるべきタイミングというのは
死亡した後ということですが
この仮登記がなされていて
死因贈与契約書が作成されてあれば
本登記の手続は、妻だけで可能です

 

万が一、
このような死因贈与契約書が
ないとしたら。

死因贈与の登記に
相続人全員の
ハンコと印鑑証明書が必要
になって
しまいます

妻だけで手続きを済ませたいという
ニーズを満たせません。
それだとせっかくの仮登記したとしても
無駄!といってもいい位です。

くれぐれも、公正証書で、
死因贈与契約書を作成しておくこと
忘れないようにしましょう。

 

仮登記の効果は?

 

仮登記をすることによって第三者が
登記記録を見たときに
始期付死因贈与仮登記がなされている
ということを知ることができるので
勝手に処分されないための
抑止力になるかと思います

また仮登記には順位保全効果があります
その仮登記のあとで
第三者が持分に対して自分の所有権を
登記したとしても
仮登記の本登記がされると
その第三者の所有権は抹消されます
(その第三者の承諾書は必要になりますが)

 

 

 

なお、税金関係は、
司法書士の仕事ではありません
どうか直接、税理士にご相談ください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片岡 えり子

千葉県茂原市の司法書士・行政書士です。お客様の、本音のニーズに応えられるような仕事を展開したいと思っています。 ご実家の土地の相続登記が終わってない、ローンを完済しているのにその登記を行っていない、昔、親が買った隣の土地の名義を変えてない、という状況の方は、お気軽にご相談ください。司法書士経験20年超のプロが、問題を解決いたします。お問い合わせは全国対応の片岡えり子事務所までどうぞ。女性スタッフによる丁寧な説明ときめ細やかな対応に定評があります。