代筆と文書偽造の間で

代筆と文書偽造の間で

 

両者の違い

 

本人以外の人の手によって
書かれることにおいては

どちらも同じですが

この二つは、全く異なったものです

 

文書偽造は
刑法上の罪です

つまり、これをやったら犯罪であり

監獄に収監されるおそれもあるというほど
悪いことです

 

 

有印私文書偽造(人の名前で勝手にハンコをついて
文書を偽造すること)
などは
刑罰として懲役しかありません。

すごく重い罪です

 

(私文書偽造等)
刑法159条
・行使の目的で、他人のハンコまたは署名を使用して権利義務等に関する文書等を偽造・変造した者は、3月以上5年以下の拘禁刑に処する。

・文書を偽造変造(ハンコなしで)した者は1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金に処する

 

 

無印私文書偽造(ハンコのない文書の偽造)の方は
いくらか罪が軽いらしく
刑罰には罰金刑も含まれます

 

 

一方
代筆は、偽造とは全く違い

もちろん犯罪ではないし
人から糾弾されるような行いでは
ありません。

 

両者の違いは、たった一つ

 

本人(文書の作成名義人)の意思が
そこにあるかどうか

つまり本人がそのことに
同意しているかどうか

それだけです

 

なので本人の意向を無視して勝手に作ったら
偽造ということになります

 

 

どうやって、区別するのか

 

ちなみに、単に、外形上
本人でない人がサインをしている

そのことのみをもって偽造だ!
と決めつける人がいますが

これは誤りです

 

本人Aさんの希望で
本人でない人Bさんが
代筆してあげているのか

それとも

Bが勝手に
本人Aさんの名前を使って
文書を偽造しているのか

 

外から見ただけでは
本人がそれに同意しているかどうかは
全くわかりません。

 

書かれた書面からだけでは
判断することはできません。

筆跡鑑定など、意味もなく
愚かしいことです

本人が書いたのではないことが前提の
代筆か偽造かの議論なので。

 

本人の意思がそこに介在しているのか
どうかを判断するためには、これは
本人に直接確認するしかありません。

 

本人に確認する

 

本人に確認すれば、すべて明白です

が、

ここで、本人に判断能力がなかったとしたら
どうでしょう。

頼りの綱はそこだけだというのに。

 

もしも当時ご本人が
わけがわからないような
朧(おぼろ)な状態だったとしたら

その状態で書かれたものは

本人が書いたものであっても
無効です

なので、その状態で締結されたとしたら
売買契約も
登記委任も、無効です

 

そうした状態にあるご本人は

当然、契約の当事者とはなれません

おそらく、ご本人の代理人
(または代理と称する人)が関わって
いるのでしょうが、そのような状態の
ご本人は代理人に対して
有効な委任をすることができません。

なので
ひっくるめてすべて無効です

たとえ、本人が署名をしたのであっても
判断能力がない状態でそれを
したとしたら(させられたとしたら)
それは、本人の真意に基づいた行為では
ないからです

 

ご注意;   代理人といっても
成年後見人や未成年後見人は別です。

意思能力を有さない本人に代わって
有効に法律行為をすることができます

 

つまり、誰かが悪意をもって
本人に署名させたとしたら

それは私文書偽造にはあたらないかも
しれないですが

その内容如何によっては
詐欺罪だったり
横領罪だったり
刑法上の罪に該当することになります

 

代筆をすること

 

代筆は偽造ではないので

手を怪我していたり
高熱で起きられないときに

または単純に
悪筆を知られたくないという本人に代わって
文書に署名することは

全然犯罪でもなんでもないです

 

一方、本人の全く知らない所で
勝手にハンコをもちだして
本人の名前で文書をつくったら

間違いなく、偽造です

この差は一見小さいとお思いかもですが
とんでもなく、大きな違いです

 

本人の意思を証明するために

 

代筆が犯罪に該当しないことは
明らかですが

ただ、問題がひとつあって

本人の意思、同意があったことを
後日どのように証明できるのか
ということです

 

司法書士が不動産取引残金決済に
立ち会う時には、ご本人が同席していても
その奥様か、ご子息が代わりに署名をする
というケースは普通にあります。

その場の全員がそれを見ています。

当然本人の意思確認もするし
お金のやりとりも本人は
承知しているわけです。そこに、
犯罪の匂いはしません。

 

後日、何かの具合で、そのことが
問題になったとして、私は代筆の事実を
証言できますが
(現場で見ているし、本人の意思も確認しているので)

さあ、その証拠を提出できるか、といったら
証言以外は何もないことになります。

多数の目撃者
(その場に立ち会った仲介業者銀行担当買主などなど)
いるのですが、彼らも同様に
証言する、にとどまることになります

 

裁判になったとしたら、これがどれほどに
証拠としての強さを持つのかは
わからないですが、書証がないのは
けっこう不利なことなのかもしれません

 

私はそれでもなお
代筆の有用性を信じるものですが

このあたりを
実質上の同意はともかくとして
(つまり証明することが困難なので)

外形上の証拠こそが必要なのだ
本人自筆すればあとはどうでもいい)
という立場に
たてば、微妙なことになります

そのような扱いをしている金融機関も
あると聞きますが
本人の意思がそこになくても
署名さえ本人がすれば問題はないかというと

非常に疑問です(普通にダメです)

ただここで
逆に

確かに本人の筆跡ではあるけれど
実はその時
意識はもうろうとしていたはずだから
一切は無効だ 

ということを主張し証明するのもまた
非常に難度が高いことではあります

 

 

電話でする意思の確認

 

近頃、さまざまな事情で、
残金決済の当日は本人が立会えないので
事前に書類を預かってほしいというご依頼が
けっこうあります。

多忙だったり
高齢で移動が大変だったり

感染症対策として外出を控える習慣が
しみついてしまったということも
あるかもしれません

 

そうしたときは事前に当方まで
来てくださる方もおいでですが

全て郵送でやりとりをしたい、という
ご希望のときもあり

その場合は書類を受け取った後で、必ず
電話での意思の確認をするわけですが

耳が遠いなどの理由で電話で意思確認が
できないときは、この方法は使えません

ただ、委任状などに署名する瞬間を
目撃しているわけではないので

考えてみればその署名が
ご本人の手になるものかはわかりません

 

事前に書類一式を当方で
お預かりしているわけなので、たとえば
昭和5年生まれなのに
素敵に可愛いい字を書いていたら
ほとんど代筆に間違いないので
その旨をご本人に確認します。

どなたの字ですか?
「孫に書いてもらいました」

これらの不動産を売りますか
「もう住めないので売ってください」

お金はどうやって受け取りますか
「代わりに孫の○○が立ち会って
受け取ります」

まだ続きますが、以下省略です

 

これなどは
孫がそぼ書類を偽造したことには
なりません。

ご本人が自由意思で
孫に署名を代筆させることは
犯罪ではありません

 

本当に本人?なりすまし?

 

ですがこれは、電話で話した相手が
本人であるという前提に基づいたものです

テレビ電話を使ったとしても
他人がなりすましている可能性は
常にあります。

しかしながら
直接の面談ができないときの便法として

・本人の住所に郵送して
・そこからの署名書類を受領して
・その電話に架電してもろもろの
いわゆる本人確認事項を聞き取る

これ以上に有効な方法は、ちょっと
思いつきません。

 

それを言うなら

対面したとしても
写真付き証明書をもってない方の場合は
電話で会話しているのと全く同様です。

さらに言えば
仮に写真付き証明書等を
所持していたとしても

写真と実物があまり同一性が
感じられないということは私たちは
常日頃感じていることです。

つまり、ほとんど似ていない
ということもあるのです

 

非常に怖いハナシですが本人確認の際に使われることの多い運転免許証ですが安価で(5000円くらい)その偽造も可能だと聞いたこともありますまた登記の際に必要な権利証は紛失していたとしても登記の手続きは可能です印鑑証明書を取得するのに必要な印鑑カードは紛失したときは免許証等さえあればかなり簡単に再発行というか再登録が可能ですこうなると常日頃犯罪者を相手にしているわけではないので(司法書士は性善説に基づいて仕事をしていると思います)どう考えてもお手上げなのでそのようなことは想定外としか言えません申し訳ないですがそこまでは考えたくないです

 

まとめると

 

本人が同意さえしていれば
他人が署名捺印することは
全く問題ありません。

ただ、後日、万が一
その署名が本人のものでないことが
問題とされた場合に

同意があった事実をどのように
証明できるのか

そのあたりは気配りが必要かと思います
かなり悩ましい問題といえます

 

売買案件で、所有者がかなりの高齢の方
というパターンは近頃特に増加しています

かなり高齢であっても、当方まで
出向いてくださる方もおいでで、しかも
自分で書きますとおっしゃって
達筆で住所氏名を何枚もさらっと
お書きになる方も普通にいらっしゃいます

本来、このようなことが理想ですが
この場合でも付き添いの方が
代筆をなさることはやはり多いです

当方もご本人がその場に同席しているのに
強いて本人の署名を求める理由はないと
思っているので
無理やり書かせることはしていません

 

ただ残念なことにこのような場合だと

所有権移転してしばらくたってから
場合によってはその高齢者が死亡してから数年経過したのち
その相続人の誰かから物言いがつき

あのとき、母はもう満足に動けなかったし
意識も朦朧としていたはずだ
という主張がされることがあり得ます

私は
本人の意思を確認しているのですが

そうした記録も10年ほどは
保存しているのですが

その委任状の記載は母の筆跡ではない。
よって
売買は母の意思ではなかったはず

と主張される可能性が
ないわけではありません。

 

また、適当な代筆者がいないときは、
私が指名をうけて(!)代筆することも
あります。

これで私文書偽造と言われたら
とんでもないハナシです

おそらくそのようなことを主張されたら
私は本人の同意があったことによる代筆を
主張しますし

本人自身が書きさえすれば
それでよいわけではないのだということも
併せて言いたいと思います

本人が書いていないからそれは偽造だ

という主張はまったくもって
笑止千万というほかありません。

 

なお、念のためですが


自筆遺言書は、代筆がききません。

くれぐれもご注意ください

 

どんなに本人の意思能力判断能力が
あったとしても

どなたかに代筆を依頼したのだとしても

本人が書かない遺言書は
形式的要件を満たせません。

無効です

その際は公正証書遺言を
作成することをお進めします

公証人は出張してくれます