公証遺言は書き直せるのか?

遺言公正証書の書き直し?

 

遺言作成したとしても、
しばらくして、もろもろの状況の変化や本人の心変わり等によって

遺言書を書き換えたくなることが、
または
書き換えざるを得なくなることがあります

 

遺言は、常に
日付の新しいものが優先的な効力をもちます
(なので、必ず日付の記載が求められています)

遺言を撤回するとはどういうことか

 

ま、言ってみれば、いつでも自由に
撤回・訂正・書き直しできる。ということです

遺言者の財産なので、処分権があるのは、当たり前ではあります

これは、
自筆であろうと、公証遺言であろうと、その
形式にかかわらず、全ての遺言書について、
同様です

 

たとえば、

3年前の日付で、
「妻に半分息子に半分」

と遺言したものを

本日付けで書き直し、
「妻に全部相続させる」
とした場合、
(遺留分については考えないとして)

それが(今日書いた方が)有効な遺言となります

 

(遺言の撤回)
民法1022条 遺言者は、いつでも
遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができる

 


※上記条文の、
遺言の方式に従って、というのは、
自筆でした遺言はやはり自筆で、
公証遺言はやはり公証遺言で撤回するという意味ではありません。

撤回するについても、その方式は、
それぞれの遺言の方式にのっとっていることが要求されるという意味です

なので、
一度作成した公証遺言を自筆遺言で撤回することは、自筆遺言の方式を満たしていさえすれば、問題ありません


 

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する
(不動産は妻に相続させる、と言いながら、第三者に売却する等のこと)

 

3年前の遺言で、
「不動産はすべて妻に相続させ、
預貯金はすべて息子に相続させる」

としたものを、

遺言の一部変更をする

本日付けで書き直し、
「預貯金のすべては娘に相続させる」

とした場合は、
預貯金については、息子ではなく、
娘だけが相続することになりますが、

一方、それでも

3年前に書かれた遺言書のうち、
「不動産は妻へ」の部分は有効です。

 

ですが、このあとで、

さらに残りも変更する

もしも遺言者が
不動産全部を第三者に売却してしまったら
その部分については、
遺言を訂正していなくても
遺言を撤回したものとみなされます

 

 

 

いつでも撤回できる

 

(遺言の撤回権の放棄の禁止)
民法1026条
遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない

 

一度書いた遺言書でも

自由に書き直したり、好きなように
改変したりできるとしたら

期待していた相続人側としたら若干切ないです。

将来の生活設計にかかわってくる、ということもあるでしょう。

 

ねえお父さん、この遺言書は絶対よね。
絶対に、書き直したりしないでね。約束よ。

という約束をしたところで、
撤回する権利は放棄することができないのです。

あげるよと約束したものをほかの人に
遺贈などしてしまうのは、まあ、信義則に反するかもしれませんが、

自分の財産については、結局のところ自分に処分権があります。
法的には、いつでも撤回することが可能です

 

(遺言書または遺贈の目的物の破棄)
民法1024条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする

 

ご自分で書いた遺言書は、いつでも、破って廃棄してしまうことができます
これは簡単にイメージすることができるのですが、

一方、

公証役場で作ってもらったきちんと印字正本された遺言公正証書(正本)と書かれたものを破るのは、どうなのでしょうか。
少し、勇気が(蛮勇が)いりそうです。

分厚い封筒に入っていたら、けっこうな力(ちから)もいりそうです

 

公正証書遺言の撤回

 

公正証書遺言も自筆証書と同様で、
やはり撤回が可能なのです。

可能なのですが、

撤回方法については、気を付けてください

手元にある遺言公正証書の正本を破り捨てただけでは、撤回したことにはなりません。
それだけで、遺言の撤回をしたつもりになったとしても遺言は依然として有効です。

遺言公正証書の原本が公証役場にあるからです

 

公正証書の遺言について、
すべて撤回したいと思ったら、

公正役場で撤回の手続きをする必要があります。

撤回しても遺言書原本は返却されませんが、
原本と同時に撤回資料も保管されることになるため、撤回したことは検索すればわかります

こうしたときはおそらく再度、公証役場で新しい遺言を作成することになろうかと思いますが、そうではなく、
次は、面倒のない自筆遺言でやりたい」
としたらもちろんそれもアリです

 

公証役場に行く時間がないのだ

 

たとえば、

公正遺言では家族に残すように遺言したが
近頃の家族のふるまいを鑑みるに、
財産はすべて○○財団に寄付したいと思うようになったとします

 

がしかし、
すぐには公証役場に出向く時間がないというようなときは、

自筆で、新たに遺言書を作成すれば、
民法1023条により、以前のものは撤回されたものとみなされます

遺言書は常に日付の新しいものが優先するからです

ただし、
公証役場には原本がそのまま残っているので
後日、遺言書検索をされたときに、遺言は存在するものとして、ヒットしてしまいますが

 

ただ、これがまた非常に微妙なのですが、

自筆遺言は発見してもらえないことがあります。
あるいは紛失されてしまうとか。

または、

死亡後に検認手続きが必要になるため、状況次第では、
公正証書遺言の執行が先になされてしまうことがあり得ます(可能性として)

 

検認手続きとは

 

自筆遺言は、その執行(遺言に基づいて土地の名義を変更したり、預金をおろしたりすること)をするためには、
まず、家庭裁判所の検認(けんにん)手続きが求められています

検認申し立てにあたっては、

被相続人死亡後の戸籍謄本をはじめ、
相続人(相続権ある人)全員の戸籍さらに、
全員の住所も必要となるので、

それらの取得時間や
検認期日までのロスタイムなどを考えると
検認手続き不要の公正遺言にはどうしても遅れをとることになるのです

 

 

しかしながら、公正証書遺言に基づいて遺言が執行されてしまったとしても、自筆遺言書の日付の方が新しいのであれば、
それに基づいて、もとに戻す、または損害賠償請求することも不可能ではありません。

でも、でも、どう考えても、迂遠すぎます

不動産がさらに第三者に売却されたり、
預貯金が全て借金の返済に使われたりして残りがなかったら、ますます面倒になります。

 

つまり、公証遺言を撤回するにあたって、
公証役場に出向いて公正遺言の撤回までしなくても、
自筆遺言書を作成することによって遺言の書き直しという所期の目的は達成されます。

されますが、しかし、

公証遺言の執行が先行してしまう恐れがあるため、実際にそれが先行してしまうと、甚だ面倒なことになるというわけです

 

 

法務局保管の遺言の撤回

 

法務局に保管してもらった遺言書も、
いつでも撤回したくなったら、撤回が可能です

ただし、

遺言者本人が法務局に出頭して撤回書を提出してします(本人確認がされます)

 

(遺言書の保管申請の撤回)
法務局遺言書保管法第8条 遺言者は、遺言書保管官に対し、いつでも遺言書保管申請を撤回することができる

 

ではどうする?

 

自筆遺言を毎年正月の行事として、読み直し
状況または気分に合わせて書き直す人がいるという話を聞いたことがあります

これを聞いて、実際、やってみたことがありますが。
まあまあ、ひどい目にあいました。

まず、自筆遺言書をどこに置いたのか、見つけ出すまでがひと騒動。
実家に預けてあったのですが
どんなに探しても自宅にはないのだということを思い出すまで、けっこう時間がかかり、

さらには、預けた先の弟が、
預かったことをすっかり失念してしまい、
思い出してもらうまでさらにひと騒動だったため、ようやく発見されたころには、読み直して検討する情熱などは残っていないというていたらく。
でもあれこそは、私にとっては天の声だったのかもしれません。

自筆遺言は簡単でよいけれど、
置き場所保管場所問題は無視できないなと深く感じ入りました。

いつも、自筆遺言書の書き方をお教えするときには、
保管場所を考えてくださいね、と念をおしていたのですが、
念をおせばよいというものではない、
なかなか良い場所はないのかも、と反省しました。

信頼できる人(遺言書を隠匿破棄しない)自分より若い(先に死なない)責任感がある(忘れたりしない)できれば、遺言に利害関係がないまたは、たった一人の遺贈先であるなど。

理想的な保管場所は、私見ですが
法務局なのかもしれません。

保管手続きが
少々面倒ではありますが。。。。