放棄したのに、請求される?

放棄したのに請求される?

 

債務を抱えて亡くなったお父さんの相続放棄

その手続を済ませて
相続放棄申述受理証明書をもらってひと安心

債権会社にもそのことを説明して、
その受理証明書のコピーを送った。

もうこれでお父さんの借金のせいで、
苦しめられることはないはず。と
一息ついていたら。

 

ある日、お父さんの債権者という会社から
「借金を返せ」
という裁判を起こされた。。。  なぜ?

 

私はもう、裁判所で正式に放棄が
済んでいるので、
お父さんの相続人ではないのですが?

 


 

このようなことが、たまにあります

 

それほど多くはないと思いますが、
ゼロというわけでもありません。

 

放棄が済んでいるのにそんな馬鹿な!という
気がしますが、実は、
放棄が受理されたからといって
安心してばかりもいられません、ということです。

 

裁判所で放棄をし、それが受理されると
相続放棄申述受理証明書が発行され、
ほとんどの債権者は、これを提示すると、
潮が引くように消えてなくなります

放棄をするとは、相続開始時に遡って、
相続人ではなかったことになるわけですから
お金を返す義務も消失するわけです

 

ちなみに、放棄をするということは、亡くなった人の、財産、債権(いわゆるプラスの財産)を相続できないのはもちろんのこと、マイナスの財産(債務・借金)も相続しません

だから、

債権者が
亡くなった債務者の相続人に対して
貸したお金を返せと請求してきたときに、

ほれ!これを見るがよい!とばかりに
伝家の宝刀のごとく相続放棄受理証明書
掲げれば、

即、

請求は取り下げてもらえるわけです

 

相続放棄受理の際の調査はどのように?

 

ところが、相続放棄は、実はそれほど
厳密な調査を経て受理されているわけではありません。

同じ家庭裁判所の審判でも、失踪宣告などだと家裁から調査官が派遣されて現地を調査することもあると聞いたことがあります

しかし、放棄については、基本、書類審査だけです

・適正な書類が提出されていて
・照会に対する回答書の記載に問題なしなら
放棄はすんなり受理されるようです

法定単純承認事由があるかどうか、
もちろんそれがないことが大前提です。
裁判所からの照会状にもそれらに回答させる質問が何箇所もあります

 

しかし、

どこかに本人(申述人)の勘違いか
間違いがあって、本来ならば、放棄が
受理されないような事情があったのに
それでも受理されてしまった場合。

そんなときは、裁判に訴えてでも
その放棄を無効として、
放棄していた相続人に責任を負わせよう、

とする人(多くは債権者)が出現することもありえます

こうした場合は裁判にされたら、
勝ち目はないです。たぶん。

 

実は、こんなことをしていた相続人

 

被相続人の預金をたっぷり引き出したあとで
素知らぬ顔で、放棄をするとか。
(許されません)

 

被相続人の土地を自分が相続して売却したあとで、
口を拭って、放棄をするとか。
(絶対、駄目ですよ)

 

家庭裁判所からの照会状には単純承認事由についての確認事項が書かれてあるのですが、
そのあたりをうっかり見過ごして

あたかも問題なく放棄が可能、と解釈できるような回答をしてしまうと、
放棄が受理されてしまいます

 

なお、生前に多額の贈与を受けていても、
放棄は可能です。
その分の税金は発生するようですが。

 

たとえ、裁判で
放棄の有効性が問われたとしても、
法定単純承認事由に全く該当していない、
のであれば、裁判をおこされても恐れることはありません。

ですが、

実は、貯金を少しばかりもらってしまった
とか微妙だと思うようなことがあるならば、
あとで放棄が否定されることになる可能性もあります。

 

司法書士経由で相続放棄をするのであれば必ずそのあたりのご説明をするのですが、
ご自分で放棄をする場合(窓口提出の場合は係から説明があります)など、

ついうっかり、

本来ならば、放棄ができない状況なのにも関わらず、放棄の申立をしてしまうことがないわけではないのでしょう。

このあたり、非常に微妙といえば、微妙です

 

故人の預金を引き出したりしていませんか、と
一応聞いてみて、

そんなことはしていない、
一切手を付けていない、
お葬式をだしただけで、貯金も、
ほかの財産にも何もしていません。

という回答があったからと言ってそうとも限らないということなのです。これは微妙というか、なんというか。

 

アナタ嘘ヲツイテイマセンカ?これは、
口にできないフレーズなので、もしかして、
勘違いしていませんかお忘れかも知れませんが等々持って回った言い方をして注意喚起しますが、

悪い人は、もちろん真実を言いませんし、
悪意なく忘れてしまっている人はどうしようもないというかそもそも証拠もなしに適当なことは言えません。

 

上申書とかで、うまい処理は?

 

相続放棄は基本、被相続人の死後3ヶ月以内でないと受理されないので、

その期限を徒過してしまったときなど、
上申書をつけて、「死亡後3ヶ月以上経過したけれどこのような特別な事情があったのでなんとかここは放棄を受理してほしい」旨を裁判所にお願いすることはあります。

ですが、
「事情があって財産の一部を使い込んでしまったが、このたびやっぱり放棄したいことになったので、なんとかお願いしたい」的な上申はどう考えても不可能だと思います。

 

つまり、

単純承認をしたら、もう、
放棄は出来ません。

仮に単純承認事由が発生したにも関わらず
そこを無視してまたは忘れて放棄をし、
それが受理されたとしても、その放棄は、
他の裁判所によって無効にされる可能性があります

 

ただし、ご安心を。

やたらに訴えの利益もなしに、
あの人ずるいんじゃないの?と思っただけの
隣人から裁判を起こすことはできません。

 

裁判を起こされるとしたら、
「その放棄によって不利益を被る人から」
になります

たとえば、債権者とか。

 

これをすると放棄できない

 

放棄をする前に単純承認とみなされる財産処分行為・法律行為等をしてしまうと、もう、相続放棄はできなくなります

 


民法第921条(法定単純承認)

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたとみなす。

1 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。ただし、保存行為および第602条に定める期間(短期賃借権)を超えない賃貸をすることはこの限りではない

2 相続人が第915条第1項の期間内(熟慮期間のこと)に限定承認または相続放棄をしなかったとき。

3 相続人が限定承認または相続の放棄をしたあとであっても、相続財産の全部または一部を隠匿し、私(わたくし)にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となったものが相続の承認をした後は、この限りではない


 

ここに挙げられていないものでも判断に苦しむようなことはありますが

大抵は、すでに判例があります

これもやったら放棄はできない

 

  • 過払い税金保険金等の還付金の受領
  • 高額医療費の還付金受領
  • 死亡退職金(遺族が受け取る旨の社内規定がないとき)
  • 債務(弁済期到来前)を弁済する
  • 死亡保険金(受取人が故人)入院保険・傷病保険を受領する
  • 代わりに株主として議決権を行使する
  • 遺産分割協議を行う
  • 債権を取り立てる

 

 

これとは反対に単純承認事由に該当しそうだけど実はセーフというのもあります

これをやっても放棄は可能

 

  • 遺族年金、死亡一時金の受領
  • 国保 健保組合等からの葬祭費等の受領
  • 未支給年金の受給
  • 葬儀の費用を支出する
  • 墓石の購入(異様に高価なものを除く)
  • 債務(弁済期がすでに到来)を弁済する
  • 身の回り品(小銭入れ・名刺入れ・ライターなど)を形見としてもらう
  • 死亡保険金(受取人が推定相続人)を受領する
  • 仏壇、位牌、家系図などを取得する
  • 遺体を引き取る(遺体は相続財産ではないから)
  • 生前にたっぷり贈与をうける

(ただし、このときは相続税がかかる可能性があります)

 

 

 

司法書士は、
裁判所提出の書類作成のお手伝いをすることができます

相続放棄をお考えの方は、できるだけ
お早めの相談をお待ちしています