未成年者の相続分 特別代理人選任

遺産分割協議に先立って、
未成年者の特別代理人を選任する時、

どのような遺産分割協議をするのかという
協議書案を申立書に添付します。

その内容が未成年者に不利と判断されると、
そのままでは、審判がおりません。
協議書案を変更することになります

そもそも特別代理人はなんのために選任されるのでしょうか

 

未成年者が法律行為等を行うときは
本人の代理をしたり、同意をするのは
もっぱら親権者の役目です。
(または、未成年者後見人)

しかし、その役目が制限されたりして
親権者といっても未成年者の代理等ができないことがあります

利益相反行為を行うときです。

 

利益相反とはなに?

 

利益相反 とは、
こちらの利益があちらの不利益になるということ

または、

こちらとあちらの利益が競合する
または、相反するということです

 

たとえば、
・親が未成年の子に対して
相場より甚だしく安く何かを売るとか。

・親が未成年の子に二束三文の土地を数億円で売りつけるなど。

・親が遺産の大半を取得し未成年者には
価値のない土地を相続させるとか。

・親が未成年者所有不動産に法外な利息で抵当権をつけるとか。

未成年者は判断能力が無かったり、幼かったりするために法律行為をするにあたって不利益をうけることがあります。
相手が親権者であってもそれが法律行為である限りおなじことです。
そんなときに、親権者だから当然に未成年者の代理ができるということになると、意思能力に欠ける未成年者の権利が守られないことになります。

そのため、実務上、
その具体的な状況を問わず、
実態はどうであろうとも、

売買とか、遺産分割とか、ほぼ自動的に
未成年者と親権者との間で
利益相反行為と判断される取引の種類が決められています

 

これは必ずしも親権者が利益を受け、
未成年者が不利益をうけるわけではないとしても、
たとえ双方がwin-winであったとしても
または、不利益を被るのがもっぱら親権者の側だとしても、
単純に外形的に判断されるということです

 

この親権者と利益が相反しているときに、
家庭裁判所の審判で、
未成年者特別代理人を選ぶことができます

ことができます、ではなく、
特別代理人を選ばないと、
この利益相反行為をなすことができません

これを看過して行われた行為は無効あるいは無権代理行為となります

 

親権者と子が利益相反しているとき

 

(親権者と子の利益相反行為)
民法第826条
親権を行う父または母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

 

以上のように、定められているため、

たとえば、子が未成年あれば

  • 子がその財産を父または母に譲渡する
  • 子のみが相続放棄をする(母だけ相続)
  • 子と親権者との間で遺産分割協議を行う  等

 

のときは特別代理人の選任が必要です

 

遺産分割協議をするとき

 

父が死亡したとき、

・母存命
・子(2人とも未成年)の三者で、
相続手続きをするときはどうするのか
を見てみましょう

 

法定相続

 

この相続人3人がそれぞれ法定相続分で
遺産を取得するにあたっては、何も問題はありません。

母2分の1 子はそれぞれ4分の1を
遺産から取得することになります

遺産分割協議

しかしここで、たとえば、

  • 預貯金は全部子供名義にしたい、
    とか
  • 不動産は母名義にしたいとか

法定相続分と異なる分け方をしたいときは
遺産分割協議をなす必要があります

しかし、このとき母は、
親権者ではあっても子の代わりに遺産分割協議をすることはできません。
利益が相反しているからです
(こちらの利益があちらの不利益になるということ)

特別代理人を選ぶ

 

よって、子それぞれに、
特別代理人を選任すべきで、それなしでは
遺産分割協議自体が、有効なものとはなりません。
子の利益が害される危険性があるからです

子が2人いるので、
2人まとめて私が代理人になってあげる、
という人がいても、やはり同様に
利益相反が考えられるため、
2人の子それぞれに別々の特別代理人を
選任しなければなりません。

 

特別代理人選任申立

 

特別代理人候補者

 

特別代理人は、家裁に申し立てる際に
こちらから候補者を立ててします。
家裁が自動的に選んでくれるわけではありません。

申立てをした候補者が選任されないことがあるのかどうかは、よく聞かれますが、
基本、そのまま選任されます
過去に1度も不適、とされたことはありません

その資格ですが、特別なものはないです。
弁護士や司法書士でなければだめなのかと思いがちですが
条件は2つだけ。

  1. 利害関係のない人
    この相続人(未成年者)に対して直接の利害を
    持たない人。同じ分割協議書に名を連ねるような人はまずいです。
  2. 成人してること

以上であれば、誰でもOKです

叔父叔母または、母親の友人・仕事仲間というのもよくあります

 

ただ、遺産分割協議書には、
実印を押すことになるため、印鑑登録は必要です

 

印鑑登録のしかた

 

もしもまだ印鑑登録をしてなければ、登録したい印鑑を持参の上、役所おそらく住民課(住民票関係を扱っている部署)の窓口に、
登録したい人ご本人が足を運んで登録手続きをします。

写真入りの身分証明書があれば、
たぶんその場で登録して、印鑑証明書を発行してもらえるはずです。

写真入りの身分証明書がないとき、
または、本人が窓口に行けないときなどは
自治体によって扱いが異なるので、直接確認してみてください

 

登録できる印鑑の種類

 

なお、登録できる印鑑についても決まりがありますが、そのへんで売ってる三文判でも登録が可能です。
ですがシャチハタ印は印鑑ではなくスタンプという扱いなので、登録はできません。

また、これを機に新しく印鑑を作ろうというときは、通常とは一風変わったものを作るのであれば、自治体窓口に確認した方がよいです。

小さすぎるもの、大きすぎるもの、異様に複雑で照合不適、と判断されるとせっかく作ったのに登録できないこともあります。

 

 

特別代理人の役割

 

母と利益が相反するということは、
特別代理人に期待されている役割は、
少なくとも
法定相続分を下回る分割協議をしない
ということです。

悪い(!)強欲な(!)母によって
未成年者の法定された権利である遺産を奪われたりすることのないようにしたいわけですが
しかしながら実際にそうであるのか母がどのような気持ちであるのか、外形的に判断することは不可能です。
時間が経過してみないとわかりません。

なので、
利益相反行為に該当するかどうかは
親権者の動機や意図をもって判定すべきではなく、その行為自体を外形的客観的に判定すべきである、という判例があります(昭和42年)

実際は、
「このように遺産分割をするという案」
を提出して特別代理人選任申立をするので
選ばれたあとで、特別代理人がそれについて頭を悩ます余地はありません。

つまり、家庭裁判所が特別代理人を選任した時点で、どのように遺産分割協議をすることになるのか、実際は決まっているわけです。

 

預金をおろしたり、
不動産の名義を変えたりするときに、
この家裁の特別代理人選任審判書が必要になるのですが、
選任審判書には、基本、家裁の審理を経た遺産分割協議書(案)がいっしょに合綴されています。

つまり、特別代理人のしごとは
裁判所の承認を得た遺産分割協議書に署名押印をし、
印鑑証明書を提出することで実務上終了します。

と長い間思っていましたが、なんと、審判書に協議書案が合綴されていないこともあります
先日、初めて見ました。近頃はこのようなスタイルなのでしょうか?

 

分割協議書案はこのように

 

特別代理人の選任申立書に
添付する遺産分割協議(案)ですが、

この協議書案に、未成年者について
法定相続分に満たない取得分しか書かれていないと、審判はおりません。

たとえば全財産がざっと1000万あるのに
母が800万円、
子が100万円ずつという協議案だと

たとえ
母の、法定相続分を上回る部分については
母が子を教育養育するのに使う、と
主張したところで、認められないことになります

不動産すべての評価額と預貯金等の残高、
すべての合計(相続財産の合計)のうち、
未成年者がそれぞれ法定相続分を取得する
という協議が求められます

上記の例だと
子それぞれが全体の4分の1を取得するという内容である必要があります。

すなわち、
全遺産の総額1000万円だとしたら
母500万円、子はそれぞれ250万円を
相続するという内容で協議書案を作成することになります

 

未成年者 法定持分未満でもよいのか

 

ただし、近年、次のような
協議書案が通る家庭裁判所もあるという話です

 

協議書案(意訳)

ほとんど全部は母が相続する。しかしながら
母は、相続した財産のうち、未成年者の法定相続分に相当する金額は未成年の養育費及び生活費等この未成年者のために支出する

 

または、

母が不動産全部を相続する。なお、遺産分割の趣旨は、未成年者の養育費や生活費にあてるため不動産を売却することを目的とするものであり、売却のため便宜的に母に相続させるものである

 

未確認情報に過ぎませんが、どうも、
これで問題なく申立が受理されたということなのです。

リアリ?リアリ?

 

こんなありがたいというか便利な方法があるのであれば、
当然試して見る価値ありです。
依頼人の利益に繋がります
未成年者の利益にはつながらないかもですが

 

 

ということで当然試して見るわけです。

ところが
つい先日ある家裁で試みたところ
玉砕(ぎ・ょ・く・さ・い)です。

やはり、
利益相反行為に該当するかどうかは親権者の動機や意図をもって判定すべきではなくその行為自体を外形的客観的に判定すべきであるという判例の壁が立ちはだかっているのかと思われます

段々、状況も
変わっていくのかとは思いますが。

 

当然、また、試みます。

家裁によって、裁判官によって、も
異なってくるのかもしれません。

というか、
正解はないの?