看取っただけなのに、使いこみ疑惑

看取っただけなのに、使い込み疑惑の渦中に

 

被相続人の遺産を分けるにあたって
まず考えるべきは、

はたしてどれくらいの遺産があるのか
ということです

それがわからないことには、
分けようがありません。というか、
そもそも分ける財産がなければ
そうした心配をすることもないので

遺産総額を把握・確定することが、
遺産分割協議の前提になります

 

亡くなった人が遺産の一覧表でも
残しておいてくれればよいのですが
そういうことはあまりないので、
残された人が自分たちで
捜索することになります。

 

遺産の探索

 

遺産について関心がなかった場合でも
一緒に生活していれば

預貯金がどこの銀行にあるとか
不動産はどのあたりにあったらしいとか
あの証券会社とやりとりをしていたとか
ゴルフ会員権も持っていたらしいとか

家族であればそのような情報は何となく
持っているものです

 

残された書類をたどれば、
最終的に遺産を確定するのもそれほど
困難なことではないかもしれません。
とんでもなく大富豪とかでない限り
ほとんどは見当がつく範囲に存在していることが多いです。

ただし、
内緒で外国に資産を隠していたり、
遠いところに不動産を所有していたりなど
する場合については、探索するのに
テクニックが必要かもしれませんが。

 

さて、

通常の市民の相続において、
では、
これだけあるからみんなで分けましょう

なったときに、

通帳の最終残高(死亡時の残高)を
相続人たちが見て
「あれれ!?」
となることがあります

お父さんはもっとお金があるような
ハナシをしていたのに、これは何?

ということですね。

通帳の残高

 

そうなると、
銀行から入金出金明細を取り寄せるなどして
(相続人にはこれが可能です)
引き出しの詳細について、
鳩首会議が行われることになります

 

ほとんどはATMで引き出されることが多いわけなので、
誰がどのような目的で下ろしたかは、その
記録からは定かではありません。ただ、
毎月同時期に同額が引き落とされている
ときは、何らかの定期金の引落があったと
推測することはできます。

しかし、不定期にしかもわりと多額のものが
引き出されていたりすると、

これはどうしたことだ!一緒にいた
末娘さんが自分のために使ったのでは??

という疑惑が生じることになります

 

同居の家族など

 

末娘さんは、
被相続人と二人暮らしまたは、
一人暮らしの被相続人のために頻繁に家を
訪ねて身の回りの世話をしていたとします

こうなると、末娘さん、
非常に分が悪いことになります

実際に、親の預金を勝手に自分のために
使ったのであれば、それはその責任を
取らなければなりませんが、

そうでないときは

どのようにして自分の無実を晴らすのか
これを生前から考えておく必要があります

 

ひょっとしたら、

他の兄弟たちは皆、私の苦労をわかって
くれているし、会うたびに、
一人だけに介護を任せてごめんねなどと
ねぎらってくれているので、
そのような心配は全くの無用だし、
そんな心配をするなんて兄弟たちに対しても
失礼だ

とお思いかもしれないですが。

 

どんなに他の兄弟たちと
仲が良かったとしても、
先のことはわからないものです。

親が亡くなると、
兄弟姉妹の関係がダイナミックに変化して
生前とは全く様相が変わってしまうことも
少なくありません。

 

残念なことですが、

被相続人が亡くなったと同時に
仲良かったはずの兄弟から手のひらを
返したようにひどい要求をされる、
ということはそれほど珍しいことではないのです

 

遺産が少ない?

 

将来、もしも万が一、

被相続人の遺産が少ないぞ、おかしいな
末娘さんが勝手に使いこんだのでは?

という疑惑がかけられたときは、
自分が潔白であることを兄弟たちに
納得させる必要が生じます。

 

つまり、
無実の証拠を、
生前中からそのつもりで用意しておくべきです。

そして、いざというときに
無実を証明してくれるのは、
紙で残された証拠で、それに勝るものは
ありません。

 

そうしたことがなければ幸いですが、
備えをしておいても悪いことはありません。

少々面倒なだけです。

その面倒さと引き換えに、
万が一理不尽な嫌疑を受けたときに
難なくご自分の無実を証明することができるわけです

 

紙の証拠が何もないとしたら、
ほかの相続人たちから
裁判(不当利得返還請求というような)を
起こされたときに、
どうやって、身の潔白を証明すればよいのでしょうか

 

現在、
ご兄弟姉妹と仲良くやっているとしたら
ここまでする必要があるとは想定できない
かもしれないですが。

可能性としてそんなこともあるかもしれない
ということで、
少々の覚悟はしておいた方がよいと思います

 

疑惑を受けたときの備えとして今からできること

 

1 まずは、
いつから被相続人の代わりに預貯金から
現金の引き出し等をするようになったかを
明らかにしておきましょう

 

諸般の事情があったために通帳を
預かることになるのでしょうが、できれば
預かった時点で何か一筆
ご本人に書いてもらうのがよいです。

 

年月日私は末娘に日常費用の管理のために
○○銀行〇支店の通帳2冊を預けました

と言う感じで、
通帳の所有者本人が書いた書面があれば、
これは何よりの証拠です

 

これは、
その日以前の出金については
末娘(預かり人)に責任がないことを
明らかにするためです

 

この時にはすでに手が不自由で
字を書けないというのであれば、
預かった人がメモ等で書き残しておく他ないですが、
何もないよりはたとえメモでも
あった方がよいです

録画という手もありますね。

将来、言い合いになったときに、何か
証拠として出せるように
知恵を絞ってください

 

2 そして、その日付以降は、

通帳の引落欄に
細目(ガス代とか国税金とか)が
載らないものについては、
全ての領収書を取っておきます

振込みしたものについては、
領収書がもらえないこともあるので
きちんとメモを残します

 

被相続人の必要経費であっても、
本人ではなく末娘さんが引き出すのであれば
その明細と支払先からの領収書も
保存しておくべきです

 

3 本人の意思で、本人の指示に従って
引き出しや振り込みをしたのであっても
それを証言できるのは本人だけです
死んでしまったら証言はできなくなります

その時点で、
本人の指示で、何に使ったということを
書面にして、メモでもよいので
残しておきましょう

少額ならば通帳にメモしておくのも
ありですが、これもまた
あとで勝手に書いた、などという疑いを
もたれることがあるので、
できることならもう少し、
証拠能力の高い形で残した方がよいと思います

できれば
面倒でも本人の手書きで、
○○のために末娘にたのんで、
○○銀行から〇万円おろした
、など。

 

4 あとで返そうと思って今月の生活費を
少し借りちゃった(てへっ!)というのは
絶対にダメです。


実際にそのようなときは、できれば
借用書を作るとよいですが、
それも他人行儀過ぎてイヤ、
いうのであれば、

記帳したら
「末娘生活費として借用」
メモをしておくとよいです。

返金したら、そこにも
「〇月〇日借用の生活費を返済」という
メモを書きます

面倒でしょうが、

こうした地道な作業が、これらの証拠の
信憑性を一段と高めてくれます

 

 

おまとめ

 

面倒ですよね。

だからできれば被相続人の通帳は
預からない方がよいですが、
そうもいかないから預かったわけです

これから施設に入るとか、
足腰が悪くて自分でATMに行けなくなったというような
切実な事情がそれぞれあるわけでしょうから
仕方ないです。

 

預かってそのまま
金庫にしまっておいてよいなら別ですが
言うまでもなく多くの場合は、そこから
被相続人のお金を管理するという合意または
暗黙の合意がされていることがほとんどです

 

看取った人の気持ち

 

末娘以外の相続人はそれぞれ遠方に住まい
仕事などで忙しく、到底
被相続人の面倒を見ることは叶いません

末娘は自分の身を半ば犠牲にするように
被相続人の身の回りの世話を
し続けたのでしたが。

 

わざわざ領収書やその都度メモを
残したりしなくても、他の兄弟たちは
私がどれほど大変な思いをしてこの10年
介護してきたか、
よく知っていてくれるはず

と、思っていませんか

 

たいへんな事を分かっているのは、
すぐそばにいる身近な人だけです。

つまり、

被相続人は、末娘さんの苦労を
認知症ででもない限りわかっています。

末娘も自分の苦労はわかっています。

ですが、
同居していない、
離れて住む兄弟たちには、
その本当のところは
わからないものなのです。

これは、
その兄弟たちがどうの、ということではなく
人間というものはそういうものなのだ、
と思っておいた方がよいです

人は、自分が経験したことのないことは
わかりません。

 

理不尽な要求

 

被相続人の遺産分割協議をするに際して、

この10年の間に3000万円というお金が
勝手に引き出されている、これは末娘が
自分のために使ったものなのではないか?

ほとんど寝たきりのお父さんがこんなに
お金を使う理由があるとは思えない
使途不明金が3000万もある、
どうしたことだ!

などということを言われたりします

 

生前は滅多に顔をみせることもなかったのに
遺産分けというような時は真っ先に居丈高に

「お前が勝手に使ったんだろ!」

的な暴言を吐いてくる人もいます。

 

ただ、被相続人が生前に、
自分の意思で毎月現金でおろして、どこかに
支払いをしていたときは、それは、本人の
自由なので
とやかく言う資格は誰にもありません。
本人の財産を本人が使う分には誰にも文句は言えません。

 

ひょっとして、末娘が使ったのでは?
という疑惑が生じてしまったから
使途不明などと言われるわけです。

 

このときも、

「通帳はいついつから末娘が管理します」

というような文書を作ってありさえすれば、

末娘が管理を始めたのは〇月〇日から。
それ以前の支払いについては、本人が
やったことなので、末娘には責任がない

と主張することができます

 

 

 

せっかくの
看取り(みとり)という最期の献身を

使いこみ疑惑などで
汚されることがないように

できる備えはしておきましょう

 

たとえそれが無駄になったとしても

よい家族に恵まれた証です

 

ただ、そうでなかったときのため

疑惑への対抗策を講じておくことを
お進めします

 

 

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