自筆遺言・遺言書保管法を比べてみる

自筆遺言を自分で保管?遺言書保管法とは?

そのメリット・デメリットを比べてみる

 

2020年7月10日から、自筆の遺言を保管してくれる制度が始まります

法務局で保管します(まだ、詳細は決まっていないようです)

これは自分で作成した自筆遺言を単に法務局で預かってもらえるだけでなく、いろいろと有り難いメリットがあります

この制度が始まっても、これまで通りの自筆遺言の制度も残ります。

 

自筆遺言

自筆遺言は、なんと言っても気軽に書けるのが一番です。
足が弱ってきても誰の助けもいらず
 

その気になりさえすれば簡単に一人で
作成することができます

 

ですが、これまでもわりと問題になったのが
作成はしたものの、さて、

どこで保管したらよいか、
というものです。

自宅でナイトテーブルの引出しに入れておくとか、金庫にしまっておくとかいう、それらもよいとは思いますが。

 

せっかく書いたのに
相続人から無視される遺言書や
せっかく考えたのに
その内容を実現されることのない遺言書

いずれも残念な遺言書ですが、

一番気の毒な遺言書は、
発見してもらえない遺言書
でしょう。

 

遺言は書いたけど

家族にそれとなく遺言書の存在を伝えておくことは、重要です。

が、例えば、同居してない相続人に相続させたい、などの場合は、伝えておくだけでは足らないかもしれません。

万が一、そのまま、誰かに廃棄でもされたら、元も子もありません。

可能であれば、相続させる予定の人に預けておくのが安心だと思います。
遺言執行人を指定して、その方に預けるのも手ですね。
一人暮らしの方だと、ヘルパーさんに頼んである、という話を聞くことがあります。いずれにしても信頼できる預かってくれる人がいないとしたら、保管場所は悩ましい問題ではあります

 

書くのはまだ時期尚早

「そのうちに書くから、今はまだ早い まだこんなに元気なうちにそんなものを
書いたりしたら一気に弱って逝ってしまうような気がする」
などという高齢の方のご意見を耳にすることがあります。

おそらく、冗談のふりをしていますが、かなり本気で言っています。

「縁起でもない、とっとと死ねというのか」
と一言のもとに切り捨てられることもありますね。

ですが、いよいよ弱って来たら、
遺言を作ろうなどという意欲は
なくなってしまいます。

元気なうちには書く気にならないけど、
書く必要が生じたときには、もう、
その力が残っていない、

そんなことがありませんように。

 

遺言は少なくとも、動けなくなるほど弱ってしまう以前に作成しておくのが大事だと思います。

特に高齢の方は、元気がないかな、と思っているうちにとあっと言う間に弱ってしまって、遺言書作成どころではなくなってしまいます。

 

また、家族からそれとなくでも急かされると、
「書く気が失せる、生きていく意欲までなくなる」 と激しく拒否する方もいます

年配の方は、遺言、と言われただけで、激しく反応してしまう方もいらっしゃるようです。

気持ちはわからないではないですが。

そこは、ひとつ、大人になってもらいましょう

家族の忠告で足らない人は、親戚の面倒見の良いおばさんとか、に話をしてくれるようにお願いしてみるのも手だと思います。
何とかして、遺言を書いてもらいたいと強く思うものです。

 

特に今、相続人間で特段の不和軋轢などの問題がなければ緊急度は低いかもと思いがちです。
が、
その方が亡くなると、ある種の勢力分布が変わることにより、いろいろなことが変化していきます。

 

特に子供がいない場合とか。
どんなに和気あいあいと過ごしていても
配偶者にすべてを遺したいのであれば、
遺言書がないとけっこう大変な思いをします。
万が一の備えを遺してはどうですか

 

子供のいない夫婦の遺言

被相続人(亡くなった人)に兄弟姉妹が一人もいなければ子供がいなくても配偶者が唯一の相続人なので、問題はありませんが。

兄弟が、5人くらいいて、そのうちの2人が既に死亡して、その子どもたち3人ずつ全員に相続権がある、といった場合。

配偶者から見れば、亡くなった人の兄弟の子供は、近所に住んでいれば交流もあるでしょうが、遠方住まいだったりしたら、ほとんど会ったこともないかもしれません。

 

相続人の数が多くなると、外国に住む人や、行方不明の人も出てきます。

さて、被相続人の名義だった自宅を
残された配偶者が相続したいと思った
とします。

 

そのためには、遺産分割協議を行い、
自宅を配偶者が相続するという文言の
遺産分割協議書を作成する必要があります。

 

その書類に、相続権ある人全員の署名押印をもらいます
その署名捺印については、実印で押印し、
印鑑証明書(外国住まいの人は、サイン証明書など)が必要です

 

「判子を押すのは問題ないけど、当然わたしの法定相続分はもらえますよね。」と言われたりします。

法定相続分を計算して、例えば、20分の1、とか、60分の1とか、を
相続財産総額から計算して、現金で支払うということです。

 

相続財産の中に現金があれば問題はありませんが、運悪く、それほどの現金預貯金が相続財産にも手元にもなかったとしたら、ハンコがもらえない可能性があります。

 

かといって、
自宅の20分の1を、
被相続人の兄弟の名義にする
というのも
かなり微妙な事態です

 

このようなときに、
後悔先にたたず、と言いますが、

ほんの一言、
さらっと遺言書を書いておきさえしたら
楽勝でしたのに!

 

また、家(うち)は、兄弟姉妹一家眷属全員が仲良しだから、そんな心配はいりませんよ、という方もおいでですが。

配偶者が亡くなった途端に、仲良しだった義兄弟義姉妹に一斉に背を向けられる、という事態もないではありません。諸行無常・万物流転です。

きのうはあんなに仲良しだったのに、今日は氷のような目を向けられる、ということも世の中にはザラにあることです。

 

 

 

 

自宅保管(金庫でもどこでもお好きなところで)

 

遺言書保管法が施行されても、今まで通りの自宅等での保管も有効です

・字は基本的に全文、自筆で書く必要があるので、手が震えて字が書けない人はこの自筆遺言をすることはできません

・字さえかけて意思能力があれば、実に簡単に作成することができます(大きな大きなメリット)

・形式的な要件を満たしていない場合は、たとえ検認されたとしても、遺言は実現されません

・偽造や、遺言書の有効性をめぐってトラブルになることがあります

・死後、家庭裁判所で、必ず検認(けんにん)手続きが必要です。この手続を経ないと遺言の内容を実現することができません(すごく面倒)

・死亡後すぐに財産の名義を移すことが事情によってはできないことになります

・遺言書検認手続を申し立てるためには、相続人全員の戸籍等が必要です。(これが面倒)

たとえば、相続権ある人が20人いたとしたら、それらの戸籍を収集するためにかなりの時間労力費用がかかります。
よって、死後直ちに収集を始めたとしても自宅の名義を換えるまでには、かなりの時間を要します
戸籍等の収集のための時間、それから期日(裁判所から呼び出された日)が指定されて検認期日が開かれるまで1ヶ月から2ヶ月(裁判所の繁忙の度合いによって)かかるので、順調に行っても2、3ヶ月かかってしまうことになります。

・発見されないこともあります(発見者による隠匿の可能性もあり・単純に発見困難な場所であることもあり)

 

遺言書保管法による保管(法務局で)

・自筆遺言であるのに、検認手続は不要
このメリットは大きいです

・保管を申出るときに、相続人全員の戸籍等が必要。(これが面倒)

・本人(遺言をする人)が必ず、本人確認書類を持参して

出頭しなければなりません(これも面倒)

・自筆証書遺言の形式に則っているかについて法務局のチェックがあるので、形式の無効を心配しなくてよいのは、大きなメリットです(内容が法的にどうなのであるかまではタッチしない)

・死後は、相続人から遺言書保管の有無の問い合わせができるため、発見されない恐れはあまりないです

・歩けなくなってからでは法務局に出頭できないので、この方法は難しいことになります

 

 

公正証書遺言(公証役場で)

・歩けなくなってからでも、字が書けなくなってからでも大丈夫。公証人は出張してくれます

・公証人が内容を見てくれるので、死後、本人(遺言者)の意思が実現されるようにチェックがされます。法的に不備があることはほとんどありません。(大きなメリット)

・費用がかかります

・戸籍の他に財産関係について揃える書類等がいろいろあり、けっこう面倒です

不動産登記簿謄本、固定資産税評価額証明書、通帳コピー、本人印鑑証明書など(これは面倒)

・検認手続は不要です(大きなメリット)

・全国の公証役場に遺言が残されていないかどうか調査してもらえます

(遺言検索システム ただし、平成元年以降のものについてのみ)

・遺言時の本人(遺言者)の意思能力について争いになった場合に、自筆遺言に比べて意思能力について問題が生じにくいとされています。

・偽造の恐れが極めて少ないです(大きなメリット)

・死亡後、原則としてすぐに、遺言内容を実現することが可能です。

(財産の名義を換えるとか)(大きなメリット)

 

 

まとめると、あとで手間がかからない順で、最初の手間がかかる、ということでしょうか。

 

作成時の作りやすさ(作り安い順)

1 自筆遺言書

2 自筆遺言書(遺言保管法による)

3 公正証書遺言

 

死亡後の手続きの簡単さ(簡単な順)

1 公正証書遺言

2 自筆遺言書(遺言保管法による)

3 自筆遺言書

 

あくまでも一般的な目安です。

公正証書遺言でも、実現可能性の低そうな、手数のかかりそうな、ひとことでいうと、どうしてこうなった、というような遺言も見たことがあるので。

 

自力でできて好きなようにデザインできるという意味では、遺言保管法による自筆遺言が死後の手続きの簡単さを考え合わせると一番いいかな、という気がします。

 

ま、好みですし、法務局に本人が申請に出向くというのは、どうも敷居が高いとお思いの方もおいででしょう。

ならば、歩けなくても字がかけるのであれば、自筆遺言書をお遺しください

簡単です

 

 

子供がいない夫が妻のために残す遺言書

例文です。
このまま固有名詞日付のみを変えてどうぞ。


遺 言 書

私は、妻の片山りえにすべての財産を
相続させます

令和1年10月25日
千葉県茂原市上の林1の841
片山えり蔵    印鑑


  • 全文自筆で。
  • 印鑑なければ、拇印でもOKです
  • 丈夫な紙 コピー用紙とか普通の便箋に
  • ボールペン、万年筆などで書きましょう
  • 鉛筆はだめです。

まだ、書いてない人。
ご健闘をお祈りします