遺言は、書き直せますか

 

 

法律書類なのにやたらに書き直せるって?

 

意外な感じがするかもですが、遺言書は何回書き換えたり変更したりしても
OKです。

(民法1022条)

 

毎年、正月に作成し直すという話を聞いたこともあります。

 

変更したら、その部分について、以前の遺言を取り消して新たな遺言をした、
とみなされます。(民法1023条)

 

どういうことかというと、例えば、

「A土地を長男Xに相続させる。」とあったものを、
「A土地を次男Yに相続させる。」と変更あったら、

その土地は、長男Xではなくて次男Yに遺された、
ということです。

以前の遺言に「長男X」とあったので、結局二人で半々にする。
というようにはならないのですね。

 

なんだか、話がややこしくなってきましたか。

 

結局どういうことなの?

 

わかりやすく言うと、

 

新しい日付の遺言が常に優先される、のです。

 

そして、ここが特にびっくりなのですが、公証役場で作った公正証書遺言を、
ご自分で作った自筆遺言証書で撤回するのも、あり、なのです。

 

このあたり、お客様に説明すると、ご存じなかった方は、皆さん、非常に
びっくりなさいます。

当然です。

公証役場といえば、お役所であり、そこで厳格な様式に従って作成した遺言書が、

ご自身で簡単に変更したり取消したり書直しができたりするのですから。

ある意味、とんでもない!!という感じも、無きにしもあらずではありますが。

民法がそのように決めています。(民法1022条)

 

もちろん、その逆に、自筆遺言を公正証書遺言によって、変更することもできます。

 

はっきり約束してもらいたいのに・・

 

また、せっかく書いてもらった遺言を、変更や取り消しをされないように、

「絶対にこの遺言は書き換えません」

と一筆書いてもらっても、残念ながら、無効です。

 

遺言者はその遺言を撤回する権利を放棄することができません。(民法1026条)

(つまり、遺言を書く人は、好きなときに書き直せる、ということです)

 

私がもらってるはずなのに!!

 

また、書き換える代わりに目的物を処分してしまったら、その部分について、
遺言は撤回されたとみなされます。(民法1023条第2項)

 

例えば、長男Xに自宅を相続させる、という遺言を書いたあとで、
この自宅を、誰か別の人に売ってしまった場合など。

 

  • 長男はその買った人に、「自分が遺言でもらったので自分のものだ!」、
    などとは主張できず、
  • その売却は100パーセント有効で、
  • すなわち、その遺言のその部分は撤回された、とみなされる、ということです。

 

新しい遺言書が有効ですよ

 

遺言には、必ず、作成日付が書き入れられていますので、

日時が新しいものが常に有効です。

どんどん内容を書き換えて、そのたびに法定相続人を悩ませたり、法定相続人同士が争うのをみて楽しむ、などという悪趣味な話が小説やドラマでありますが、

さて、いかがなものでしょうか。

 

 

平成27年の遺言で、長男に全てを遺し、
平成28年の遺言で二男に全てを遺し、
平成29年の遺言で全てを妻に遺し、
平成30年の遺言で全てを 某団体に寄付する、

という遺言を遺した場合、
遺言の有効性を巡って争いがおこるであろうことは想像に難くありません。

 

騙して書かせたんじゃないのか、とか、

あの時もうお父さんは呆けていたはずよ、とか、

考えるだけでも辛いハナシになります。

 

公正証書遺言であればすべてOK、ということはありません。

被相続人には当時遺言能力なかった(ボケていた)という理由で

せっかくの公正証書遺言が認められなかったという判決もいくつも出ています。

 

もらえなかった側の人が、

あのとき(遺言書の日付のこと)、
お父さんは、ボケていて新聞も読めなかったのに、遺言ができるわけがない、

などという感じで、裁判を起こすわけです。

 

 

  • なお、現在、民法は改正されることが決まっているのですが、実際の運用は、
    今現在(2018年8月5日)決定していません。
  • 自筆遺言方式の要件緩和については、2019年7月12日までの政令で定める日に施行されます 
  • 法務局における自筆遺言書の保管については、2020年7月12日までの政令で定める日に施行されます

 

いずれにしても、私なら、遺言は、
心をこめて、心を決めて、潔く一通だけ遺したい、かな。