遺言を残したほうがよい理由

どうして何度も何度も遺言書の作成を
おすすめするのか

 

それは、
司法書士として開業してはや23年。
その間、
遺産分割協議が整わないために相続登記が
できなくて困っている人たちを何十人も
見てきたからです。
それに尽きます

 

単に、相続登記ができないことが問題なのではありません。

現在住んでいる自宅の名義が、
亡くなった方のままになっている。
これはもう住んでいる人としては
この上なく心配です。
心配しない人もいますが。
その心配は杞憂で終わることも多いです

 

実際のところ、

もしも登記が終わってないとしても
法定相続人が自分ひとりであれば、
全然問題はありません。

 

ですが、

 

例えば、子どもがない夫婦で、
ご主人が死亡。
ご主人には兄弟姉妹が5人いるとします

 

そうすると
相続登記がされていない時の所有者は誰か
というと

 

これら法定相続人全員での
共有状態ということになります

 

奥様と兄弟5人の合計6人の共有です

ちなみに、共有持分は奥様4分の3
兄弟姉妹はそれぞれ20分の1ずつです

 

登記自体はご主人の名義のままだとしても
自宅の4分の1の所有権がその兄弟たちに
あるというのは、
その兄弟たちとの関係性にもよりますが
あまり気分のよいものではありません。
たぶん。

 

考えてみると、

遺言を書いて
一番メリットが大きいと思われるのは
やはり、
子どものいないご夫婦の場合だと思います

 

子どもがおらず、ご主人が死亡したとき

 

奥様のご名義にするにあたっては
相続権のあるご主人の兄弟姉妹たち全員の
実印が必要、です。

快い協力が得られない場合は、
いつか
誰かに取られてしまうのではないかと
夜もおちおち眠れない、ということに
なります
考えすぎかもですが、
世の中何が起こるかわかりません

 

 

子供のいない夫婦の場合

 

ともかく、子どものいないご夫婦は、
ご主人名義の自宅を
奥様にお遺しになりたいのであれば

方法は

生前に贈与をしてしまうか、
遺言書を作成しておくかの
2つしかないと思われます

 

贈与税ですが、
婚姻期間20年以上の配偶者への
贈与税の特例
があるので、
贈与税がかからずに済むこともあります

 

ただ、この方法の弱点は、人が亡くなる順番はわからない、ということにあります

せっかく、奥様の名義にしたとしても
奥様が先に亡くなるかも知れません。

そうすると、事情は全く同じことです。

 

法定相続人はご主人と
奥様のご兄弟全員ということになります
その兄弟のうちの何人かが他家へ
養子縁組をしていたりしたら、
そしてそのあと子どもないまま
死亡していたとしたら、
一気に兄弟は増えます

 

いずれにしてもご主人の法定相続人は
奥様だけではありません

なので、

遺言書も作成せず、
生前贈与もしてないとしたら、

悲しいことになる可能性があります

 

ご主人の兄弟全員にも相続権があります

 

ご主人の兄弟が5人いたとしたら、
その全員からハンコをもらわなければ
相続による名義変更はできません。

 

ちなみに、ハンコをもらう、と書いているのは、宅配便の受け取りのハンコを押すというような感じではなくて、印鑑証明書を添付して実印をおしてもらう、ということです。遺産分割協議書の内容としては、この場合は、ご主人の名義の自宅土地建物は、奥様が相続すると決め、そこに、その分割案に私は同意賛成します、の証(あかし)の意味でハンコをもらうものです。

 

どなたか兄弟のうち
亡くなっている方がいたら
そのお子様がいたらお子様に
法定相続権が移ります。人数が多くなると
同意してもらえなかったり
行方不明の人がいたりして
なかなか一筋縄では行きません。

 

 

経験上、祖父~父~子どもというように下に降りてくる相続登記はそれほどでもないのですが、本人~親~兄弟というように横にいく感じの相続登記はわりと揉めることが多いような気がします

 

単純に私も欲しい、俺はもっと欲しい、いやいや僕は大学にも行かせてもらってないetc・・・

のように単純(でもないですが)な財産分けで揉めるのはまだ仕方がないというか、好きなだけ話し合えばいいと思います。第一、兄弟がゆっくり話し合える機会というのも仲々ないですし。

しかし、ご主人に先立たれたあとの奥様の財産関係、については、ぜひ、ご主人にはきちんとお元気なうちに検討してもらいたいと思うものです

 

遺言がなければこのように分割する

 

現金等が潤沢にあれば、
兄弟たちには法定相続分を現金で分けて、
奥様が自宅を相続する。という分割が、
難なく可能です。

ちなみに、子どもがいない場合、
ご主人の両親ともに亡くなっていたら、
兄弟全員合わせての法定相続分は
全遺産の4分の1です。

 

具体的には

 

たとえば、
遺産の総額が4000万円だとして

 

  • 自宅の評価が3000万円
  • 現金預貯金が1000万円

 

奥様は法定相続分4分の3であるところの
自宅(3000万円)を相続し、

 

ご主人の兄弟5人いるとしたら、
それぞれが200万円ずつ現金を
相続することができれば、
問題なく納まるわけです。

 

もしも、ご主人の兄弟たちが
納得しなくても
遺産分割審判になれば、この分割案は
承認される公算が大だと思います
特殊な事情があれば分割の仕方はかわります

 

現金がない場合

 

ところが、
ご主人の残した財産は自宅
(評価額1800万円)のみ、で
現金預貯金はほとんど見るべきものが
なかったとします

 

奥様の法定相続分は4分の3なので、
自宅の4分の3(1350万円分)を
登記し、
同時に残り(450万円分)を
兄弟5人で20分の1ずつ登記

 

このようにすることは可能
(というか、分割協議書なしで可能)
ですが、

 

将来のことを考えると
現実的ではありません。

奥様は
将来のことを考えれば自宅を100%
取得したいはずです。

 

持分たったの20分の1といえども、
その持分に抵当権をつけることもできるし
抵当権が実行されれば、
差押、競売にかけられる可能性もあります

またその持分のみを売却することも
できます
実際にする人がいるかどうかはわかりませんが。
その気になれば全く問題なく可能です

 

これらは、
その不動産に住んでいる奥様としては
非常に不安定な緊張をはらむ権利関係です
(その20分の1はいつ、売却されるかもしれない。しかも、兄弟5人合わせれば4分の1)

 

また、兄弟達は、

不動産の20分の1をもらっても
しょうがないので、現金でその分をくれ

というかもしれません。
5人合計で450万円です

 

ご主人の遺産にそれだけのものが
なかったら、奥様がご自分の貯金から
それを支払うことになります。
貯金がなければ、おそらく、
分割協議書にハンコを貰うことは
できないかもしれないです。

 

でもハンコをもらえないだけならまだ
いいです。
法定相続分をすぐにも現金でくれ
自宅を売却してそのなかから4分の1を
兄弟に寄こせ

と言われることもあります。

 

遺言書があったなら

 

さあ、もしもここに、
ご主人の書いた遺言書があったら
どうですか。

 

広告のチラシの裏に
マジックインキで半ば冗談のような
軽い字体で書かれています

 


遺言書

遺産は全部愛する妻に遺す。

愛をこめて。

令和1年12月10日

○山○太 拇印


どうですか。

 

こんな冗談みたいな遺言書が
本当に有効なんですか?

とお思いの奥様!

大丈夫なんです。

 

家裁での検認手続

 

ただし、
家庭裁判所の検認手続を経る必要が
あります

 

戸籍等をそろえて、
検認申立書(裁判所にあり)を窓口に提出

 

すると、裁判所から
検認期日の呼び出しがされるので
その日に法定相続人全員が裁判所に
集まります

 

来ない人がいても問題ありません

 

裁判所の検認証明書が
合綴された遺言書
があれば、

亡き○山○太さんの遺産は全部
奥様のものになります

 

兄弟姉妹には、遺留分ない

 

兄弟姉妹には、
遺留分侵害額請求権が
認められていないため

遺言があれば、
ほぼ100%実現可能です。

 

これが、お子さんがいたりすると、事情が少し、変わってきたりします

お子さんがいたら、お子さんには遺留分があるので、請求されると金銭で支払う必要があります この場合は全体の4分の1(子どもが何人いても合計で4分の1)が遺留分です

 

配偶者居住権があるから大丈夫?

 

配偶者居住権が新設されたので、
妻の居住権は安泰なのでは?とお思いの
あ・な・た。(令和2年4月1日施行)

ところが、
なかなかそういうわけにも行かないらしいのです。

 

6ヶ月間は無条件で住み続けることができますが。(短期の配偶者居住権)

そのあとは?

やはり法定相続人の同意が得られないと
配偶者居住権(長期)を取得することも
登記することもできません。

ただ、
その旨の裁判所の審判を受けることにより
取得することはできます

 


(審判による配偶者居住権の取得)

民法1029条 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。

一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。

二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く)


 

 

すごく、面倒ではないですか

 

遺言書なしで亡くなってしまったのなら
仕方ありません。

面倒だろうが、何だろうが
兄弟姉妹達に
頭を下げてまわらなければなりません

 

でも、
もしも、
ご主人がご健在なのであれば。

 

遺言書をほんの一筆、
奥様のために書いてもらいたいと
強く強く思うものです。